イベント報告 2016/10/05
10月3日(月)、学際融合領域研究棟2号館1階研修ホールにおいて平成28年度秋学期入学式を挙行しました。
本学では、国内外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、高い基礎学力を持った学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、各々の研究分野に対する強い興味と意欲を持った者の入学を積極的に進めており、このたび、65名の新入生を本学に迎えました。
【入学者数】
(博士前期課程)
情報科学研究科 19名(うち外国人留学生 16名)
バイオサイエンス研究科 7名(うち外国人留学生 7名)
物質創成科学研究科 6名(うち外国人留学生 6名)
◆計 32名
(博士後期課程)
情報科学研究科 14名(うち外国人留学生 9名)
バイオサイエンス研究科 11名(うち外国人留学生 11名)
物質創成科学研究科 8名(うち外国人留学生 7名)
◆計 33名
◆総計 65名(うち外国人留学生 56名)
【学長式辞】
本日、奈良先端科学技術大学院大学の博士前期課程に入学された32名の皆さん、また、博士後期課程に入学・進学された、33名の皆さん、本学の教職員を代表して歓迎致します。
今日の新入生の皆さんの中には、世界11カ国からの56名もの留学生の方々がいらっしゃいます。母国を離れて、この日本で学ぶことを決意された皆さんを、心から歓迎したいと思います。皆さんが入進学されたことにより、本学に在籍する留学生の方々は、世界30ヵ国からの214名となり、全学生数1,071名の20%となりました。
まず、今日、入学された方々のために、本学が設立された経緯を話しておきたいと思います。奈良先端大の設立にあたって取りまとめられた構想には、本学の研究の使命について、以下のように書かれています。
「先端科学技術分野は、広範な学際的広がりを持つこと、基礎研究における全く新たな展開が見られること、しかもその展開が極めて急速であること、基礎研究における新しい知見が、極めて短期間のうちに技術開発につながっており、また技術の進歩が、これらの基礎研究の基盤としてその進展を可能にしているなど、いわゆる科学と技術との一体化が、他の分野以上に顕著であること、等の共通の特色を持っている。したがって、これらの分野においては、従来の学問分野の枠を越えて、学際的な基礎研究の推進が極めて重要である。」
教育に関しては、以下のように書かれています。
「先端科学技術分野の急速な進展に伴い、これらの分野の研究開発を担う研究者、技術者の組織的養成が、学術研究面でも産業経済面でも大きな課題となっている。特に、これらの分野においては、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる高度の基礎力を持つ多様な人材を養成することが必要である。」
すなわち、本学は、急速に発展していた情報・バイオ・物質という先端科学技術分野において、工学・理学・農学・医学等の従来の学問分野の枠を越えた学際的な、そして科学と技術が一体化した研究活動を展開し、それを背景に、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる人材を育成するために設立されたのです。こうした本学の研究教育のミッションは、「世界を視野に入れ」というキーワードが付け加わっていますが、現在でも、強く社会から求められているものであり、先駆的なものでした。
そして、活発な研究活動を展開していた、多様な背景を持つ気鋭の研究者が結集し、高度の研究活動とそれを背景にした組織的な大学院教育により、6,929名の修士課程修了者、1,336名の博士課程修了者を送り出してきました。その中には、世界58国からの449名の留学生の方々がいらっしゃいます。こうした世界で活躍する本学修了生の方々と、研究や人材育成のためのネットワークを構築していくことも、本学の重要な役割であり、それを一層強化するために、この4月にはインドネシアに本学の海外オフィスを設置しました。さらに、タイに次のオフィスを設置することも検討を進めています。
こうした本学の研究教育活動については、極めて高く評価されています。例えば、文部科学省は、実績のある大学の研究力を一層強化するために、研究大学強化促進事業として全国で22機関を現在支援していますが、奈良先端大はその一つにも選ばれています。
さらに、我国の大学はともすれば視野が国内に限られていましたが、現在、世界の将来を見据えて、世界の方々を受け入れ、日本の科学技術と社会を知ってもらい、また、日本人学生も世界における科学技術への要請と世界各国の社会を知ることができるよう、大学のグローバル化を進めることが求められています。そのため、文部科学省では、我国の大学の国際化を牽引する大学を積極的に支援するスーパーグローバル大学創成支援事業を推進していますが、本学は、その支援対象にも選ばれています。
研究大学強化促進事業とスーパーグローバル大学創成事業の両方に選定されている大学は全国で17大学だけです。皆さんは、研究力と教育力において、我が国トップレベルの大学の一員となったことを誇りにすると共に、そのチャンスを最大限に活用していただきたいと思います。
さて、現在の科学技術は大きく変貌しつつあり、我々は新たな科学技術革命の最中にいるとも言えます。情報・バイオ・物質が現在の科学技術の基盤にあることは変わりありませんが、そのあり様は大きく変化しています。
情報科学分野の新しいキーワードは、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)であり、人口知能(AI)です。コンピューター、センサー、ネットワークの性能が高度化し、全世界がインターネットでリアルタイムに繋がれ、世界の様々なデータを一体的に活用することが可能な時代になりました。その結果、「サイバー世界」と「実世界」が融合した、必要なもの・ことを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供でき、社会の様々なニーズに対し、きめ細やかに、かつ、効率良く対応できる「超スマート社会」ともいうべき社会が展望されています。
バイオサイエンスの分野では、ゲノムDNAの塩基配列解析技術や細胞活動のイメージング技術等の革新等により、ヒトを含めた、自然界で生きる多様な生物の様々な細胞活動、生物活動について、情報を得ることが可能な時代になりました。
物質の分野でも、分析・計測技術の高度化により、新しい物質世界の姿が見えるようになり、原子・分子の挙動の解明に基づき、新しい物質の創成が目指されています。
さらに、重要なことは、科学技術の大変革の中で、情報・バイオ・物質の3領域をまたぐ融合領域の研究者・技術者が求められていることです。例えば、バイオサイエンスの分野では、先に述べたゲノム情報や生体分子の時間的空間的分布が、大量の情報として蓄積されるようになり、ビッグデータバイオロジーという情報科学と密接な融合領域が生まれています。新たな物質の創生の上でも、マテリアルズインフォマティックという新しい融合分野も生まれつつあります。一方、生体分子の振舞いの観察は、ピコ秒、ピコメートルの時間的空間的分解能に達し、ケミカルバイオロジー・ピコバイオロジーという領域が生まれています。物質創成科学における素子の微小化による生体埋包型デバイスの開発、材料の柔軟化と生体適合性付与、新規蛍光物質や抗がん剤開発、バイオサイエンスにおける先端発生生物学や細胞生物学の進展等、3領域を結びつけることで、最先端医用工学の展開も期待されています。
また、基礎研究とその社会的な展開の間の距離も、ますます近くなっています。そして、「知のフロンティアの拡大により、研究の最前線では質の高い知が次々に生み出されており、何が新たな社会的な価値に繋がるのかの予測が困難となっている」ことが指摘されています。
皆さんには、将来、社会の第一線で、新しい科学技術の開拓・活用により、新しい世界を築いて行くために、急速な科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる高度の専門性と幅広い視野、さらに、異分野の人々とのコミュニケーション力、協同力を本学で養っていただきたいと思います。本学は、研究室・研究科の壁が低いことが大きな特徴です。実際、研究科の枠を超えた共同研究も活発です。
さらに、本学の機動性を生かして、新たな学際・融合領域の教育・研究活動を推進するために、平成30年度から1研究科体制へ移行することを目指しています。
皆さんも、自分の専門分野に閉じこもることなく、常に様々な研究の動向に目を配り、幅広い視野を養っていっていただきたいと思います。他研究室や他研究科の考え方や手法をとりこむことにより面白い展開が可能になるかもしれません。
皆さんが、こうした意義ある学生生活を送ることができるように、本学教職員は努力を惜しまないつもりです。
入学おめでとうございます。我々教職員は皆さんを心から歓迎します。
平成28年10月3日
奈良先端科学技術大学院大学
学長 小笠原 直毅