研究成果 2020/12/23
【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 情報科学領域 ソフトウェア工学研究室の幾谷吉晴氏(博士後期課程3年)、数理情報学研究室の久保孝富特任准教授らは、情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センターの西本伸志主任研究員、西田知史主任研究員との共同研究により、コンピュータプログラムを理解する能力について、個々人の習熟度の高さと関連する活動が脳の複数の領域で見られることを明らかにしました。この研究成果は、プログラム理解能力の習熟について脳活動の観点から明らかにするとともに、優れたプログラミング教育法の開発につながると期待されます。
日常のあらゆるものが電子化され、インターネットに接続される現代社会において、プログラミング能力を有した人材の確保・育成は世界的な重要課題となっています。日本においても、2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されるなど、プログラミング人材の育成に対する社会的な意義や重要性がますます大きくなっています。しかし、プログラミングは人類史においても比較的新しい活動であり、その能力がヒトの脳内でどのように実現されているかは、ほとんど明らかになっていません。
そこで研究チームは、fMRI※1という脳活動を計測・可視化する装置を用いて、プログラミングの初心者から上級者までを含んだ合計30名の被験者の脳活動を調べました。その結果、各被験者のプログラム理解能力の高さが、大脳皮質の前頭葉・頭頂葉・側頭葉にわたる複数の脳領域の活動と関連することを明らかにしました。具体的には、脳情報デコーディング技術※2という解析技術を応用し、実験時に提示されたプログラムの内容を被験者の脳活動パターンから読み取ったところ、前頭葉・頭頂葉・側頭葉にわたる複数の脳領域における読み取り精度が高ければ、各被験者のプログラムを識別する課題の正答率が高成績であることを示し、両者が有意に相関することが分かりました。この結果は、高いプログラム理解能力を持つプログラミング上級者の脳活動パターンほど、プログラムの内容をうまく捉えられるように洗練されている可能性を示唆しています。加えて、これまで曖昧で抽象的なものとして扱われてきたプログラミング関連の能力を、具体的な脳領域の活動パターンと結びつけられたことは、IT人材育成やプログラミング教育の質の向上のための基礎的な知見として重要な意味を持つと考えられます。