世界初、ハイビジョンの16倍高解像度の8K超高精細映像素材を圧縮せずにインターネット網で遠隔伝送する実験に成功 ~臨場感ある映像の編集も自在に~

2014/02/05

【概要】
奈良先端大は、独立行政法人 情報通信研究機構(以下、「NICT」)、学校法人幾徳学園 神奈川工科大学(以下、「KAIT」)、NTTアイティ株式会社(以下、「NTT−IT」)、株式会社PFU(以下、「PFU」)、日本電信電話株式会社 (以下、「NTT」)、アストロデザイン株式会社(以下、「アストロデザイン」)と共同で、超高精細映像素材の非圧縮IP伝送実験に取り組みました。

2014 年2月にNICTが主催した「さっぽろ雪まつり」時の実証実験(注1)で、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、「NTT Com」)から提供された100Gbpsのインターネットサービス(注2)を用い、ハイビジョン画素数の16倍という8K (7680×4320画素) 超高精細映像素材(注3)と、4倍の4K (3840×2160画素) 高精細映像素材(注4)を圧縮せずに、東京−大阪間で同時に双方向伝送する実験に、世界で初めて成功しました。伝送する映像素材は、8Kカメラと4Kカメ ラで撮影するそれぞれのライブ映像と、あらかじめ録画された8K映像と4K映像です。

【背景および今回の実験概要】
2020年の 東京オリンピックの開催決定を契機に、8Kや4Kの超高精細映像を利用するアプリケーションの研究開発が加速しています。8Kの映像制作においては約 24Gbpsの伝送ビットレート(通信速度)が必要になるため、映像編集や映像効果を付加するためのシステムを一カ所にまとめて構築し、システム間の距離 を縮める必要がありました。しかし、今後、これらのシステムを地理的に分散させて構築可能にすることや、超高精細映像素材を遠隔地に伝送することが時代の 要請として重視されてくるでしょう。

奈良先端大では、KAITや関係各社と共に、4K高精細映像素材を安定的に伝送、蓄積配信するスト リーミングクラウドというインターネットを使って行う技術の研究開発をNICTのテストベッド(試験環境)であるJGN-X(注5)を利用して進めてきま した。今回、使用可能な回線の帯域が100Gbps化されたことにより、4Kよりもさらに高精細な8K超高精細映像でも圧縮せずに伝送可能であることを実 験により実証し、映像の臨場感を損なうことなく遠隔地へIPネットワークサービスにより中継することが可能になることを証明しました。加えて、撮影場所と 映像処理するクラウド設備をシームレスに連携でき、編集に必要な時だけクラウドの設備を使う映像製作やCG(Computer Graphics)合成を含む映像効果をインターネットのクラウド上で動作させる技術検証が可能となります。

今回は、8Kカメラ(注6) の映像を用いて4K映像伝送装置(注7)を送信側・受信側共に4台組み合わせ、同期処理化(注8)することで、8K高精細映像素材のリアルタイム伝送を実 現させました。また、広帯域IP映像サーバ(注9)を2台組み合わせ、同期処理化することで、8K高精細映像素材の蓄積配信を実現させました。これらの場 合、実際には16枚のハイビジョンの映像を完全に同期させる必要が生じ,映像に付加されているフレーム番号と表示タイミングを発振器の信号を用いて同期さ せる手法を取ることで実現しました。さらにネットワーク上の安定的な配信を実現するため、高精度なネットワーク計測技術(注10)と開発した8K映像トラ ヒックメータ(注11)を併用して伝送状況を実時間で観測しました。

【今後の予定】
今回の実証実験での結果を踏まえ、超高精細映像素材を用いたクラウド映像製作ワークフロー(作業手順)の確立、マルチメディア研究との連携による新たなメディア製作手法の確立の研究開発を進めます。

【協力会社】
実証実験の実施にあたり、シャープ株式会社、北海道テレビ放送株式会社、NTT Com、ピュアロジック株式会社、株式会社トランステクノロジー、デジタルリサーチ株式会社の協力をいただきました。

【注釈】
(注1) 「さっぽろ雪まつり」時の実証実験
NICTが新世代ネットワーク技術と放送技術の実証実験の場として、テストベッドJGN-Xを用いた実験フィールドを提供して行う。様々なプロジェクトが最新技術を持ち寄り、実験を行う。

(注2) 100Gbpsイーサネットサービス
NTT Comの企業向けインターネット接続サービス「スーパーOCN 100ギガビットイーサーネットサービス」のこと。
参考URI : http://www.ntt.com/release/monthNEWS/detail/20130123.html

(注3) 8K超高精細映像素材
8Kは現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる3300万画素 (7680×4320画素) を持つ。様々なフォーマットが提案されているが、今回は8Kデュアルグリーン方式、フレームレート60P、12bit映像を扱い、必要なネットワーク帯域は24Gbpsになる。

(注4) 4K高精細映像素材
4Kは2014年に開始を目指す次世代高品質テレビ規格のこと。様々な規格があるが、今回は映像業界での素材として用いられる4K@60P映像を扱い、必要なネットワーク帯域は12Gbpsになる。

(注5) JGN-X
NICT が2011年4月から運用している新世代ネットワーク技術の実現とその展開のためのテストベッド環境のこと。JGN-X利用プロジェクトとして、2013 年4月にKAITが「リアルタイム指向ネットワークコンピューティング技術を用いたストリーミングクラウド機能の検証」というプロジェクトを立ち上げ、奈 良先端大も共同研究・実験を行っている。その他の参加組織は、NTT-IT、PFU、アストロデザインであり、共同で超高精細映像伝送・蓄積配信実験を進 めている。2011年以前より、奈良先端大は前身のJGN2plusに10Gbpsで接続を行い、KAITやNTT未来ねっと研究所との間で各種の利用実 験を行っている。

(注6) 8Kカメラ
アストロデザインからAH-4800として製品化された単板式の超小型なカメラユニット。本製品に8K CCU(カメラコントロールユニット)のAC-4802を接続する事で、8Kデュアルグリーン方式の映像が出力される。
参考URI : http://www.astrodesign.co.jp/japanese/product/ah-4800

(注7) 4K映像伝送装置
NTT 未来ねっと研究所の技術を基に、PFUからQool Tornado QG70として製品化されている。QG70は1台で非圧縮ハイビジョン素材(以下、「HD」、伝送レート1.5Gbps)を4本同時に送受可能な性能を有 し、装置内の同期で4Kの非圧縮素材を送受可能である。今回は、装置間の同期を行う事で、8K超高精細素材の伝送を実施する。
参考URI : http://www.pfu.fujitsu.com/qooltornado/

(注8) 同期処理化
今回はHDの1.5Gbpsのレートを単位に、これを複数組み合わせて送受するマルチレーン伝送を行っている。このため、レーン間での映像のずれがないように映像のフレーム番号と周波数同期を行う。

(注9) 広帯域IP映像サーバ
NTT 未来ねっと研究所の技術を基にNTT−ITからメディアサーバSHS−XMSとして製品化されている。本サーバ装置は、1台で 4K@60P(12Gbps)を蓄積・配信できる性能を有する。今回は、2台の本サーバ装置をネットワーク上に設置し8K映像の送受を行った。対向の入出 力装置として、前述の4K映像伝送装置を4台使用し、8K超高精細素材の蓄積・配信を行う。
参考URI : http://www.mediaorchestra.com/ipvs/product/p01/index.html

(注10) 高精度なネットワーク計測技術
JGN- Xでは、高精度ネットワーク測定装置PRESTA 10Gを複数配置し、多面的な計測が可能な環境を用意している。PRESTA 10Gは、10Gbpsのキャプチャ・ジェネレータ機能を有する10ナノ秒粒度で測定可能なネットワーク測定システムであり、NTT未来ねっと研究所の技 術を基にNTT−IT社からSHS-NM10Gとして製品化されている。
参考URI : http://www.mediaorchestra.com/ipvs/product/p03/index.html
今回は100Gbpsの区間の一部のトラヒックを抜き出して、計測を行う。

(注11) 8K映像トラヒックメータ
複数台の4K映像伝送装置のトラヒックを同時に観測し、使用状況の表示が可能なリアルタイムネットワークモニタを開発し、実際のトラヒック伝送状況の可視化を行う。

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