研究成果 2021/07/09
新しいビール酵母の育種に成功 アミノ酸「プロリン」を多く含むことで醸造環境での
酵母の発酵力アップ~奈良県産クラフトビールの醸造に応用し、独自の味わいと飲みやすさを実現~
概要
奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域ストレス微生物科学研究室の高木博史教授、西村明助教は、奈良市のゴールデンラビットビール社(代表:市橋健)との共同研究により、甘味のあるアミノ酸で、醸造環境における酵母の発酵力向上が期待できる「プロリン」を多く含むビール酵母の育種に成功しました。また、この新しいビール酵母を用いてクラフトビールを醸造することで、独自の穏やかな味で口あたりが軽いエールビールの商品化が実現しました。
酵母は、酒づくりや製パンなどさまざまな発酵食品の製造に利用されており、今回の成果は食品のアミノ酸含量を増やす技術につながり、製品の高付加価値化や発酵技術の高度化への貢献が期待されます。
プロリンは甘味を呈するアミノ酸であり、細胞内で水分含量に関わる浸透圧の調節、有害な活性酸素の消去、タンパク質の安定化などの機能があり、細胞を多様な環境の変化から保護することが報告されています。
今回、私たちは既存のビール酵母から、細胞内のプロリン含量が親株に比べて増加した菌株(NP383株)を分離し、プロリン含量増加のメカニズムや発酵環境下での特性を解析しました。
その結果、NP383株に存在するγ-グルタミルキナーゼ(GK)というプロリン合成の最初の段階で関わる酵素の遺伝子に変異を発見しました。また、この変異型GKを発現する酵母では、プロリン含量が野生型GKに比べて増加しました。通常、複数の酵素が関わってグルタミン酸から合成されるプロリンは、必要な量だけ合成されるとGKの活性を阻害することで過剰合成を防いでいます。
しかし、変異型GKではその仕組みが一部解除されたため、NP383株のプロリン合成量が増加した可能性があります。
また、ビールの原料である麦汁を使って発酵試験を行った結果、NP383株は親株に比べて発酵の立ち上がりが速いことが判明しました。酵母にとって麦汁は浸透圧の高い環境ですが、NP383株では高浸透圧から細胞を保護するプロリンの含量が増加したため、親株に比べて発酵が速く進行すると思われます。
私たちはこれまでに、プロリンを高生産するパン酵母や清酒酵母を用いて、製パン性の向上や酒質の多様化などに成功しています。今回、プロリン含量の増加したビール酵母を育種したことで、従来にない新しい味や風味を有するビールを国内外の市場に提供できると期待しています。
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問い合わせ先
<研究に関すること>
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 ストレス微生物科学研究室
教授 高木 博史
TEL:0743-72-5420 FAX:0743-72-5429
E-mail:hiro[at]bs.naist.jp
<報道に関すること>
奈良先端科学技術大学院大学 企画総務課 渉外企画係
TEL:0743-72-5063 FAX:0743-72-5011
E-mail:s-kikaku[at]ad.naist.jp
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