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概要

せんたん JAN 2018 VOL.26

の扉を開くミニ胃袋をつくり、臓器の再生や発がんの謎を解くバイオサイエンス研究科幹細胞工学研究室栗崎晃教授高田仁実助教組織の2カ所で発現する特定の遺伝子をマーカーにして分化誘導し、さらに3次元培養して成熟させた。「胎児や新生児の胃に似ています。胃が成熟するまでの詳細な仕組みについて、発生学の立場から調べて行きたい」と意欲をみせる。この方法を利用して胃の粘膜が異常に肥厚するメネトリエ病(胃巨大皺壁症、いきょだいしゅうへきしょう)の発症モデルを作製することにも成功した。胃がんの発症機構の研究については、ミニ胃袋に、原因になるピロリ菌の毒素タンパク質を発現させて調べるなどの方法を行っている。胃の粘膜の上皮にピロリ菌が感染して慢性炎症を起こすことで、がん化しやすくなることが示唆されているが、細菌が出すタンパク質のどれが、どのように悪さをしているか、ということなどを調べている。構造や機能を保持どんな臓器や組織にも分化し得る多能性を持ち、万能細胞と言われるES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、分化のメカニズムの解明や再生医療をはじめ、難病の原因の解析、薬剤の毒性評価など医学、医療を大きく進展させると期待されている。その中で、栗崎教授は、マウスのES細胞から試験管内で胃の機能を持つ組織全体を「ミニ胃袋」として作り出すことに世界で初めて成功した。胃は重要な消化器官でありながら、発生の初期から、臓器になるまでの詳細なメカニズムが未解明だっただけに、この幹細胞分化法は有力な研究手段になる。また、このミニ胃袋を実験モデルとして胃がんなど病気の原因や発症機構を突き止める研究も手掛けている。ミニ胃袋は、直径1ミリー2ミリで、中空の袋を形成する細胞群。胃酸やタンパク質分解酵素を分泌する細胞や蠕動(ぜんどう)運動する筋肉まで備えている。胃の機能がある上皮と間葉と言われる結合(間質)▲核が大きなシート状の線維芽細胞上で増殖する、明るいマウスES細胞のコロニー。3つのコロニーの中に小さな数十個のE S細胞がぎっしり詰まっている。