ブックタイトルSENTAN せんたん MAY 2019 vol.28
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SENTAN せんたん MAY 2019 vol.28
知の扉を開く植物の体内時計の全貌を解明し、自在に花を咲かせるバイオサイエンス領域植物生理学研究室教授紹介葉と根が情報をやりとり遠藤求教授久保田茜助教概日時計は細胞の分化に影響生物の体内には、約24時間周期でリズムを刻む概日時計が備わっている。この時計は特定の遺伝子の働きによってリズムを生み出すのだが、その仕組みは植物と動物では全く異なる。ただ、その機能についてはいずれも環境の周期的な変化を感知して状況を予測し、対応した手立てをとるための基準になり、生き残り戦略の重要な役割を担う。どうやら共通の目的に向かって別々のルートで進化したらしい。遠藤教授らは、未解明な課題が多く残る植物の体内時計に焦点を当て、全体像を解明する研究を重ねている。「植物の体内時計は、遺伝子発現のタイミングや、ある細胞から別の細胞への分化・伸長、季節に応じた花芽の形成とさまざまな生理現象と関わっています。実験では、モデル植物のシロイヌナズナを使い、分化の過程での体内時計の重要性などさまざまな切り口で調べています」と語る。これまでの研究成果を紹介しよう。まず、植物の体内時計は、葉や根などいたるところにあるものの、その機能は、葉の表皮と維管束など場所によって異なり、役割分担していることをつきとめた。「動物の場合、脳が体内時計を統括していますが、脳がない植物は、体内のあちこちにさまざまな機能を持つ時計を配置し対処していることになります」と説明する。それでは、植物体の各部位でバラバラに示された時間を補正する仕組みはあるのか。動物なら、神経や血管を介して情報が伝達される。そこで、遠藤教授らは、植物に栄養素を加えると体内時計が反応し、リズムが変化することを発見。「植物が栄養素を取り込むときに、合わせて時間の情報も伝えている」という新しい概念を打ち出した。地上部の葉と地下の根の時間情報のやり取りを調べる実験では、葉で光合成によりできた糖が根まで移動して濃度が高まることで「昼間ですよ」という時間情報を伝え、根は栄養素を吸収するときのリズム変化により情報を上げるというやり取りの仕組みを解明しつつある。「植物は動けないので、光などの環境情報を、いろいろな方法で知る必要がある。本来なら光はエネルギーや栄養を得る手段のはずなのに、そこにも時間的な意味を持たせるのは、植物らしさの一つでしょう」と話す。開花の時期を薬で調節植物の体内時計の働きが如実にわかる代表例は、毎年、決まった季節に花が咲くことだ。植物は日ごとに変わる日照時間の長さ(光周性)を読み取り、自身の生理環境を変化させて、最適の時期に花芽をつける。08 S E NTAN