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概要

SENTAN SEP2019 vol.28

解するとともに、植物分野に幹細胞生物学という新しい研究領域を構築していきたい」と抱負を語る。基礎研究だが、食糧やバイオマスの増産など応用にも結び付く。多角的な視点で解明共同研究の体制は、中心になる計画研究班が、梅田教授をはじめ、名古屋大学、理化学研究所、京都大学、東北大学、九州大学などの研究者17人が8グループに分かれて取り組む。さらに、研究者が自分のテーマを持ち込む公募研究班(2年間)にも18グループが採用されている。計画研究班のテーマは「多能性幹細胞の維持・再生機構」(梅田教授)など基盤的な課題をカバーする。「幹細胞が2個の細胞に分裂後、そのうち1個だけ幹細胞になる非対称分裂の機構」(五島剛太・名古屋大教授ら)では、なぜ、決まった細胞が幹細胞になるか、という幹細胞の新生・維持に関わる重要な仕組みを調べる。また、「多能性を維持するメカニズム」(経塚淳子・東北大教授)は、イネの多能性幹細胞は穂の数を増やすが、花芽をつける時期にはなくなるため、それを阻害して幹細胞を作りつづける遺伝子の働きをどのようにタイミングよく制御し、増収に結びつけるかを追求する。し4月には、植物が細胞の増殖を一時止めて、ストレス対策をするメカニズムを突き止めて、成果を発表した。植物の研究は、91年に東京大学応用微生物研究所助手になったときから始めたが、遺伝子解析が中心だった。その後、ドイツ・マックスプランク研究所で研究員として、植物の細胞周期の研究に取り組み、帰国後は植物細胞の高い適応能力に興味を抱くようになった。細胞の初期化や分化全能性も視野に入っていた。「細胞分裂や分化をベースにした現象に焦点を当てた研究を続けてきたので、その延長上に今回の幹細胞のプロジェクトがあるのでしょう」と振り返る。▲多能性幹細胞が増えると種子収量が増加するイネで多能性幹細胞の維持に関わる遺伝子を徐々に活性化すると、花形成(多能性の終結)が遅れる。そのため、穂の枝別れが増え、花の数が増えることにより種子収量が増加する。梅田教授は横浜市の出身で、宇宙飛行士の古川聡さんとは、栄光学園の同期生。音楽好きで中学、高校ではブラスバンドでトランペットを吹き、大学ではコーラスに参加した。2006年に本学に赴任したが、そのころ偶然、京セラドームでオリックスの試合を見て、奮戦ぶりに感激し、すぐさまファンクラブに入会したという一面もある。さらに、「長寿命樹木に見られる幹細胞ゲノムの多様性の分析」「幹細胞の増殖を制御する植物ホルモン」など多角的な視点からの研究がある。「これまで幹細胞が植物の分裂組織の中の一種の細胞という捉え方だったのが、今回の研究を機に、幹細胞そのものに踏み込んでクローズアップした研究が進展してほしい」と梅田教授。もうひとつの研究上の課題だった幹細胞の状態を調べる最新の技術も導入した。理化学研究所に植物幹細胞解析センター(PSAC)を設け、個々の細胞の遺伝子発現情報を解析する1細胞解析や、3次元イメージングを使い、データベースを構築する。梅田教授は「細胞ごとの特徴を遺伝子の発現の状態で調べ、その情報をもとに幹細胞と周囲の細胞の様子がどのように違うか、わかります。優れた技術のサポートで詳細な実態が目の当たりになるでしょう」と期待している。梅田教授は、植物の幹細胞の増殖・維持のメカニズムのほか、植物の環境応答などについて研究してきた。ことS E NTAN10