ブックタイトルSENTAN せんたん JAN VOL.29

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概要

SENTAN せんたん JAN VOL.29

知の扉を開く脂質と抗原を一緒にしてマウスに投与したところ、抗原に特化した抗体が誘導され、効果的なワクチン開発につながることがわかった。趣味のテニスについても「得点効率などスタッツ(統計)を使って、勝利の戦略を立てるところが、研究者としての性に合っています」と話す。サイトカインストームを防ぐタイショウガに効果あり一方で、細胞から出される生理活性物質(炎症性サイトカイン)は、炎症などを起こして免疫細胞間の連絡を取るが、この物質が異常に多く放出されるサイトカインストーム(免疫暴走)が起きると、多臓器不全など重篤な症状に陥ることがある。新型コロナウイルス感染症でも重症化した患者にみられ、免疫研究の大きな課題だ。河合教授は、細菌の成分のリポ多糖(LPS)がTOLL様受容体に感知されることが、サイトカインストームを起こすスイッチの一つになることを世界に先駆け明らかにしている。「単に自然免疫を強めればいいというわけではなくて、自然免疫自体を薬剤などで弱くすることにより、サイトカインストームも抑えられる可能性があります。アクセルとブレーキの両方を使い分けるような免疫の操作技術が大切で、この2つの側面から研究を進めています」と話す。ウイルス対策については「ウイルスは血液中ではなく、細胞内に入り込んでしまうので体液性免疫である抗体は届きにくい。むしろ、ウイルス感染が全身に広がらないうちに感染細胞を丸ごと殺すキラーT細胞を自己の体内に誘導する方がよいでしょう」と提言する。河合教授らは、肺にある自然免疫の細胞の中には、キラーT細胞を効率よく誘導する機能を持った細胞があることから、この細胞を試験管内で培養し、ウイルスの抗原を加えたあと、体内に戻すと、キラーT細胞が誘導されることを確かめている。「細胞の移植を利用した新しいワクチン開発の研究を考えています」と紹介する。「免疫のシステムの異常の原因や影響を調べることにより、様々な病気の発症に関わる仕組みがわかりつつあります。その複雑な細胞間のネットワークの構図を読み解き、ピンポイントで免疫をうまくコントロールできるような治療応用の研究をめざしていきたい」と抱負を語る。インフルエンザ肺組織に特化したマクロファージを研究してきた川崎助教は、インフルエンザウイルスが再感染した時の自然免疫の役割を調べている。1回目の感染により、自然免疫のマクロファージ、抗原を提示する樹状細胞が獲得免疫の抗体などを誘導し、特定のウイルスを攻撃する体勢が肺組織内に備わっているが、2回目の感染でもマクロファージが稼働し、迎え撃つ肺獲得免疫の働きを適切に制御するという重要な機能を発揮していることがわかり、詳細に調べている。「自然免疫の視点から、現象を解き明かしていきたい」という川崎助教のモットーは「眼前の難問を何とかしないと何とかならない」。織助教は、免疫が関係する病気の発症の経緯や治療薬の効果を調べている。その一つは、組織が線維化して呼吸困難になる「肺線維症」で、肺における感染症が発症原因の一つと考えられている。この病気に関わるとされる遺伝子の機能を自然免疫の観点から調べたところ、免疫センサーのTOLL様受容体の情報伝達の調節に関わる遺伝子だということがわかった。また、抗炎症作用がある治療薬として、研究を進めているのが、スパイスに使われるタイショウガ(ナンキョウ)の成分の一つ、ACA(1-アセトキシカビコールアセテート)。マレーシアのマラヤ大学との共同研究により、サイトカインストームにも関係する炎症性サイトカインの一つインターロイキン1の産生を強く抑えることがわかった。マウスを使った実験では潰瘍性大腸炎が改善し、抗炎症剤としての効果も確かめられた。「免疫が関わる病気のメカニズムを解き明かし、効果的な薬の開発に繋げたい」と織助教。「そこにある謎に真面目に向き合う」のが信条で、本学は「意欲的な学生が多く、落ち着いた環境で研究にはうってつけです」と話す。ブレーキ役の分子を発見学生も自然免疫の研究を進展させるテーマに挑んでいる。加納規資さん(博士後期課程2年)は、自己免疫疾患の関節リウマチの発症や、新型コロナウイルス感染症のサイトカインストームに関係している炎症性サイトカインの産生に強力なブレーキをかけている分子を発見した。炎症性疾患の治療は、悪影響が大きい炎症性サイトカインの産生を抑えることが重要なだけに、加納さんは「この分子の作用機序を調べ、発現をうまく制御できる方法を見つけていきたい」と意欲を見せる。奥出遥奈さん(博士後期課程3年)は、自己免疫疾患で皮膚が角質化する「乾癬」の発症の仕組みを調べている。マウスにTOLL様受容体を活性化する薬剤をかけて、細胞の反応を調べたところ、炎症性サイトカインに加えて、活性酸素種も生じていることがわかり、病態との関連を調べている。「薬品会社に就職は内定していますが、この研究を完成し博士号を取得することが先決です」と研究への思いは強く「とにかく前に進み続けたい」という。その点、「本学は伸び伸びと実験ができる環境」と評価している。▲加納規資さん▲奥出遥奈さん?マクロファージによるウイルスの発見と炎症?バイオサイエンス領域分子免疫制御研究室https://bsw3.naist.jp/courses/courses209.htmlS E NTAN10