ブックタイトルSENTAN せんたん JAN 2022 vol.30
- ページ
- 12/24
このページは SENTAN せんたん JAN 2022 vol.30 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは SENTAN せんたん JAN 2022 vol.30 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
SENTAN せんたん JAN 2022 vol.30
特異な現象を生み出すポラリトンの謎を解き、操るかつきひろゆき香月浩之准教授物質創成科学領域量子物性科学研究室光と分子を混ぜる開拓者たちの2枚のミラーを平行に向かい合わせに配置した状態は光共振器(キャビティ)と呼ばれる。10μm(マイクロメートル)程度の間隔を持ったキャビティ中に光と共に分子を閉じ込め、閉じ込めた光の波長が分子振動の吸収波長と同じになるように調整すると、光子と分子が強く結合した「振動ポラリトン」という光と分子の特徴を併せ持った状態になる。近年、この振動ポラリトンを利用することで、通常の分子よりも化学反応の速度が加速したり、減速したりという現象が観測されていて、その詳細な機構の解明が待たれている。なにしろ、この現象を応用すると通常より効率良く化学反応を起こしたり、究極的には環境負荷の大きな触媒を用いなくても反応を実現したりと、化学産業に大きな影響を与え、SDGsにも貢献する可能性があるからだ。香月浩之准教授は、極限の強さで結合した「振動ポラリトン」状態について特性を明らかにするとともに、反応の過程などを測定し、操作する研究を行っており、日本学術振興会の科学研究費助成事業の基盤研究(B)や萌芽研究に採択されている。現象を理解する原子や分子のようなナノスケールの物質を記述する量子の世界の物理学(量子力学)では、日常の感覚をはるかに越える現象が見つかっている。ナノテクノロジーの発達で最先端の科学技術としてこのような量子状態を応用することも可能になりつつある。その中で光子(光の粒)と分子の振動運動が混ざった「振動ポラリトン」という状態をつくり、化学反応を操作するなど未開拓の分野に挑んでいるのが、物質創成科学領域量子物性科学研究室の香月浩之准教授だ。今回の香月准教授のテーマでは、振動ポラリトンが光子と分子の相互作用の非常に強い「超強結合」という極限の状態になれば、物理的、化学的に全く異なった特性を示しうることを実証する。次いで、弱い結合の状態では起こらないような反応経路で生成物が生じる過程を超短パルスレーザー照射により時間を区切って追跡し、リアルタイムのデータを計測して、ポラリトン状態の時間変化の詳細に明らかにする。香月准教授は「振動ポラリトンを利用することで、化学反応の速度が変化したり、異性化反応の分岐比が変化することが報告されています。このようなことが起きるためには、始状態から生成物ができるまでの分子のポテンシャル曲面の形状変化が起きていると予測されます。ただ、実際にどうしてそのような効果が生じているのか、それを示すためには実際に分子が反応していく様子をリアルタイムで観測しなければ確実に証明したとは言えません。まだ誰も成功していない実験ですから、まず現象を理解することから始めます」と説明する。11 S E NTAN