ブックタイトルSENTAN せんたん JAN 2022 vol.30

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SENTAN せんたん JAN 2022 vol.30

▲(a)振動ポラリトン状態のエネルギー準位図。分子振動と光子が強く相互作用することにより、新たな“振動ポラリトン”状態(UP, LP)が生じる。(b)フローセルを用いた実験の概略図。長さ10μm程度のキャビティ中を流れる試料に対しフェムト秒レーザーを照射して、超高速ダイナミクスの解明を目指す。超短時間の実験データを取得する実験は、超短時間の反応を追って展開される。まず、フェムト(1千兆分の1)秒単位の時間に集中して照射する中赤外レーザーを使って、超強結合振動ポラリトンを生じさせ、その寿命が尽きるまでの数ピコ(1兆分の1)秒の間の変化を、時間を区切って分光分析により調べる。時間経過を追跡してポラリトンの反応を測定する研究はこれまでにないだけに、独自の実験装置を開発することも必要だ。実験に使う微小光共振器は、2枚の反射鏡が平行に向かい合い、その間隔に応じて特定の波長の光を閉じ込めることができる。香月准教授は、波長およそ5μmの中赤外線レーザーを利用し、数μmから数十μmの範囲で鏡の間隔を変えられる光共振器を設計し、その内部に反応させる分子を含む溶液を循環させることで、超短パルスによる加熱の影響を受けずに連続的に実験ができるようにした。さらに、香月准教授はレーザー光を用いた振動ポラリトンの状態操作にテーマを広げる。光の波が持つ一般的な性質である干渉効果(コヒーレンス)を分子内部の量子の波(波動関数)の状態制御に使う「コヒーレント制御」の技術は、分子科学研究所(愛知県岡崎市)の助教時代から取り組んできたことから、「超強結合振動ポラリトンの特性に関わる解析データが得られれば、コヒーレント制御の手法と組み合わせて、通常起こらない現象を優先的に生じさせるなどの応用が考えられます」。このポラリトンは電子と光の性質を合わせ持ち、新たな電子素子の材料とされているだけに、研究が進みそうだ。こうした数多くの研究を手掛けてきた香月准教授のモットーは「実験の遂行に妥協はしない」。不安な部分を残したまま実験を続けると、うまくいかない場合、それが原因と思ってしまう。「時間はかかるが、最初からできる限りのクオリティを保って全力で臨むべきだと経験上感じています」。研究に挑む精神も「独立不羈」で、ポラリトンのテーマもグループの結束を重視して臨む。根っからの理系少年でコンピュータプログラム作りに励んできた。いまでも、実験に使う様々な装置を同期させ、データの測定を行うプログラムは自分で書いている。一方で小さい頃から山好きな両親と一緒に登山した経験から、休日は大峰や比良、白山など各地の名山に出没し、日頃の運動不足を解消しリフレッシュする自然派でもある。妥協はしないまた、香月准教授は、半導体分野で注目されている「励起子ポラリトン」という準粒子の研究も行っている。有機半導体膜を光共振器に入れ、レーザー光を照射して生じる励起子(電子と正孔)と光子が結合してできるが、その準粒子についても観測に成功するなど成果を上げている。S E NTAN12