ブックタイトルSENTAN せんたん JAN 2022 vol.30

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SENTAN せんたん JAN 2022 vol.30

知の扉を開くリアルタイムで状況に合わせた観光案内一方、「スマート観光」では、市民や観光客からスマートフォンにより送信される写真、テキストなどの情報を解析して、現地の混雑状況、満足度が高いスポットなどその場で役立つ支援を提供する。満足度については、「観光客の頭や体の動きなど仕草を計測・分析することで心理状態を推定できる」として、加速度センサなどを装着して実際に観光する実験をドイツの大学と共同で行っている。参加者を募り、精度を上げるため、情報を提供するとポイントがもらえるなど「ゲーム化」をすることも検討した。こうして集めた写真などに含まれる個人情報を保護する手法の開発にも取り組んでいる。プライバシーを含む写真をそのまま共有するのでなく、機械学習により、観光地の写真に写っている物体を認識し、認識した物体名のリストだけを共有し、リストの物体を反映した観光地の写真を自動生成するという手法。観光客間でそれぞれが持つモデルを「連合学習」という方法で統合して精度を高める研究も行った。また、集めた動画から、観光客の希望観光経路を歩行する際に見える風景の短編動画として自動編纂するキュレーションの手法にも取り組んでいる。このような情報のやりとりは、利用者のスマホを介して行われるが、「サービスが増えたり高度化するほど計算パワー・電力消費などの負担が大きいため、情報処理を手近な複数のコンピュータで分散して行うエッジコンピューティングを活用する技術開発も需要な課題です」と語る。安本教授は、分散処理システムの設計や、その延長上のIoTの研究を続け、大規模災害時の救命救急医療支援システムなどのテーマで成果を上げてきた。学生に対しては「好きなテーマを選んで楽しく研究を」と呼びかける。新入生が独自の研究のテーマと成果を競う「M1(博士前期課程1年生)グランプリ」を開いて、優勝者には研究費を支給するイベントを開催している。人を含めた社会情報システムの構築諏訪准教授は、スマートシティなどの研究を手掛ける中で、最近では、新型コロナ禍の影響で3密を避ける傾向にあることから「混雑を平準化するように人の行動を変えていきたい」との発想で研究に着手している。バスや電車の時間帯ごとの混雑度を自動的に推定し、混んでいないバスを乗り継いで目的地に行ける時刻とルートを紹介する。この研究のため、バス会社や鉄道会社の協力のもと、車内に混雑度を測定するセンサを付け、時間ごとの乗客の人数などデータを集めている。さらに、バスや電車に限らず、広範な地域や時間帯における混雑度推定のために市民参加型の情報収集を検討している。諏訪准教授は、自然災害など非常時にスマホなどを連動させて通信網を確保する「災害情報流通支援システム」などの研究を続けてきたことから、災害時に満員でない避難所に早く誘導する方法について自治体と協力し研究している。「コンピュータやスマートフォンだけをシステムと見るのではなく、それを運用する「人」を含めた社会システム全体の情報流通を支援する仕組みを考えていきたい」と語る。人に寄り添うIoTを創る松田助教は、スマートライフの分野で、健康生活の支援のため、ベルトに付けるアタッチメント型のIoTを開発。ベルトを締める際に自動的に腹囲を測定する機能に加え、加速度センサによる行動認識の機能もあって運動や座っている時間など日常的な行動も記録する。このデータから生活行動パターンを解析し、不健康になる要因を突き止めるのだが、「例えば、悪い姿勢で仕事をしていると装着者に振動で警告して行動変容を促します」と効果を高める機能を披露する。スマートシティの分野では、街のセンサにより取得された騒音、明るさなど環境データによる推定値と、そこに居た人の感じ方(知覚)のズレを補正する「知覚模倣モデル」の研究を行っている。市民からスマートフォンで集めたリアルな知覚情報を手掛かりにすることで、人が実際に安心だと感じる明るさの道路などがわかる。生駒市と連携し、市民の情報を収集・処理するプラットフォームを構築する研究プロジェクトがまもなく本格始動する。「情報提供者に必要な内容を適切に送信してもらえるような動機付けの方法も不可欠で、その点も研究の視野に入れていきたい」と松田助教は語る。学生の自由な発想で広がる研究研究室の学生の研究テーマも多岐にわたる。博士後期課程1年生の松井智一さんは、スマートホームのキットを一般家庭に1~2か月間設置して収集したデータを使った行動認識の研究に取り組んでいる。「人感センサなどを取り付けていますが、現段階では6割程度の認識率です。AIは1人ずつ行動認識しているので、複数の人の関係性をAI同士が教え合うなど工夫して精度を上げることができました」と話す。また、趣味の釣りの経験を生かして、研究室の仲間と釣り竿の振動センサと水中カメラの写真でかかった魚の種類までわかる「釣りのCPS」を提案。情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」に採択された。博士前期課程1年生の真弓大輝さんは、香りを放つデバイスを用い購買意欲を高めるシステムを開発した。店内のディスプレイで奈良県伝統野菜の大和丸なすの調理動画と連動した香りを噴出したところ、大和丸なすの売り上げが前年の約1.8倍に増加した。「消費者の行動のデータを解析してさらに適切な噴出の方法を考えていきたい」と意欲を見せている。▲松井智一さん▲真弓大輝さん?情報科学領域ユビキタスコンピューティングシステム研究室http://isw3.naist.jp/Contents/Research/cs-03-ja.htmlS E NTAN06