ブックタイトルSENTAN せんたん MAY 2021 vol.30
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SENTAN せんたん MAY 2021 vol.30
知の扉を開くショベルのように繰り返すことにより、SecYEGの排出口で物質を引き抜いて細胞外に出すという新たな機能モデルを提唱した。「これからは膜タンパク質が複合体を形成したときの構造や機能の連係について詳しく調べ、全体像を明らかにしていきたい」と塚﨑教授。このため、人工脂質膜に膜タンパク質を埋め込んだ粒状の試料(ナノディスク)をつくり、透過型電子顕微鏡(TEM)による単粒子解析などを行って、生の状態の膜タンパク質の動きを測定する研究に着手した。アミノ酸の合成に関与また、小さな分子の膜輸送についても研究成果を挙げた。細菌の膜タンパク質(YeeE)の構造を解析した結果、その中にシステインというアミノ酸の合成の材料になる硫黄(S)化合物(チオ硫酸イオン)に限ってピタッと結合する部位があり、そこを通り抜けることを発見。運び屋のタンパク質として最小限の構造変化で取り込む仕組みを提示した。この発見は、医薬品など幅広い用途があるシステインの生産性の向上にもつながることが期待される。塚﨑教授は20年にわたり、膜タンパク質の構造解析の研究を続けてきた。「構造生物学は創薬と関係が深く、研究の基盤になる情報を得るうえでも重要性が増しています。ただ、複数のタンパク質が寄り添って働く機能連係に関してはわからないことが多いので、化学的な観点から、そこをつめていきたい」と意欲を見せる。「構造解析の醍醐味は、自分が世界で一番初めにその形を見ることにあり、さらに、予想を越える機能との関連が見つかると大いに興奮します」。若い研究者に対しては「実験の成功も失敗も必ず理由があり、結果に真摯に向き合って、次に進んでほしい」と指導する。強靭な繊毛の構造市川助教は、単細胞の生物から人の精子の細胞まで共通して持つ強靭な駆動装置の繊毛・鞭毛の立体構造を世界で初めて明らかにした。生体内に近い状態の試料を原子レベルの高解像度で観察できるクライオ電子顕微鏡により、1秒間に数十回もの波打ち運動をする原生動物のテトラヒメナの繊毛を調べた。繊毛の軸は、2本の微小管という細長い管を中心に9対の微小管(ダブレット微小管)が取り巻く配置で並び、それらを束ねた鞭のような構造をしている。市川助教らの解析の結果、そのダブレット微小管の内側は、多数のタンパク質が網目状に結合しており、裏打ちする形で補強し、安定化していることがわかった。また、微小管の壁を形作るチューブリンというタンパク質の格子構造は、特定のタンパク質によって、まっすぐ伸びた伸長型の安定な構造に固定されることも明らかになった。「今後、ダブレット微小管の外側に結合して運動を引き起こすタンパク質の軸糸ダイニンに注目し、その複合体の構造を明らかにして、活性化して働く仕組みを解いていきたい」と抱負を語る。趣味は外国語の習得で、英語をはじめ、??繊毛の模式図YeeEのモデル中国語をマスターし、他の外国語にも目を向ける。「本学に多い留学生との交流にも役立っています」と上達の機会は増えそうだ。タンパク質の形成過程を追跡3月に赴任した宮﨑助教は、生体内でアミノ酸が連結して長い鎖のようなタンパク質が作られ、それが機能する構造に整然と折りたたまれていく過程で起きる他の分子との相互作用や複合体形成という現象について、細菌表層の内膜をターゲットにして調べている。光に反応して結合(架橋)するアミノ酸をタンパク質の特定の部位に導入して標的にする「部位特異的in vivo(生体内)光架橋法」という手法を使う研究で、細菌の熱ショックに応答する新たな機構を解明。最近では、この手法を改善し、タンパク質の相互作用を段階的に追跡して、効率的に解析する方法も開発した。「細菌の表層タンパク質には病原性に関わるものがあり、その生成過程を突き止めて阻害するなど医療に役立つような研究に結び付けたい」と今後の展開を見据える。「研究では、きれい過ぎるストーリーに乗せ過ぎずに、些細な発見や違和感のあるデータを大切にする方が、大きな発見に結びつく」というのが信条。大阪府出身とあって、プロ野球はオリックス・バファローズのファンで、近鉄時代からエールを送っている。?転ばぬ先の杖タンパク質の結晶・構造・電子密度学生たちも構造解析という科学の基盤をなすテーマに取り組んでいる。博士前期課程を修了した竹内梓さんは、チオ硫酸を取り込むYeeEの解析を担当した。「取り込みにシステインが重要であることは仮説を立てていて、それが自分の手を動かして実験し、確かめられたことは大きな喜びです」。事前に綿密に計画を立て実行する「転ばぬ先の杖」のことわざを大事にしていて「予想外の結果が出ても、すぐに原点に戻って対応できました」。ミラーレスカメラを常に携帯し、気に入った場面でシャッターを切り、交流を深める周到な一面もある。博士前期課程2年の内藤雄介さんは、取り込んだチオ硫酸を還元するタンパク質の研究を手掛けている。「タンパク質の特定の部位に変異を入れて、結果が変わればそこが重要だとわかる。結果がはっきり見えたときが一番楽しい」という。栃木県の出身で、大学の教員に勧められ本学を選んだが、「先生の指導は熱く、同期の連携も深く、気に入っています」。サイクリングやドライブが好きで、約700キロ離れた実家まで帰ることもあった。▲竹内梓さん▲内藤雄介さん?バイオサイエンス領域構造生命科学研究室https://bsw3.naist.jp/courses/courses309.htmlS E NTAN06