ブックタイトルSENTAN せんたん SEP 2021 vol.30

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概要

SENTAN せんたん SEP 2021 vol.30

植物の根が病原微生物に抵抗する仕組みを分子レベルでとらえるみやしましゅんすけ宮島俊介助教バイオサイエンス領域植物発生シグナル研究室辛味成分で撃退開拓者たちの宮島助教の研究は、細胞の置き換わりを繰り返す根冠において、いつ、どこで、どの分子が関わって、病原菌に対する感染防御が発動されるのか、その手順を調べるもの。材料はモデル植物のシロイヌナズナ(アブラナ科)の根で、炭疽(たんそ)病という病害を生じるカビ(糸状菌)を感染させる。そのとき、シロイヌナズナは、微生物にとって苦手な「グルコシノレート」というワサビなどの辛味成分を分泌して抵抗することは知られている。この物質は生長などの生命維持には使わない二次代謝産物なので、感染防御に関連すると推測される。「このグルコシノレートの生産は根冠という特殊な組織で行われていることが、顕微鏡観察などの研究で新たに分かりつつあります。つまり、根冠は細胞を絶えず更新しながら、生長の最前線で感染防御も担っているとみられます」と説明する。植物の根は、土壌から水分や養分を吸収し、移動できないという植物の宿命をカバーする。一方、土壌中には膨大な種類の微生物が棲息し、中には根に感染し深刻な病害を引き起こす病原菌が潜んでいる。最近では、根に棲息する多様な微生物の特定が盛んに進められているが、病害を発生する病原菌に対抗する感染防御の詳細な仕組みについては謎が多い。解明されれば、植物の病害微生物への抵抗力を高め、減農薬など農業生産にも貢献する。宮島助教は、根の先端部を覆う「根冠」という組織が細胞の更新を繰り返すだけでなく、病害微生物の感染防御も行っていることを明らかにし、その効率的な仕組みの分子レベルでの解明に挑んでいる。この研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)の「植物分子の機能と制御」の分野での個人型研究(2020年度から4年間)として採択された。さらに、宮島助教は、このグルコシノレートを効率よく生成するための触媒になる酵素複合体(メタボロン)が、根冠に存在するかどうかを明らかにする研究に着手している。グルコシノレートは硫黄(S)を含む有機化合物。細胞内でグルコシノレートはトリプトファンなどアミノ酸から複数の酵素によって少しずつ改変される事で出来上がる。この過程で関与する酵素が、病害微生物の攻撃に応じて集合してメタボロンを形成していれば、酵素間の距離が近くなり、次々と反応できる。そのメタボロンが根冠で初めて見つかれば、感染防御のシステムを構築する過程を分子レベルで明らかにすることができる。強力な装置でメタボロンを追跡その研究の強力な手助けになる全国でも数少ない測定装置が、2019年に本学に導入されたことは幸運だった。FLIM(蛍光寿命イメージング)共焦点顕微鏡という装置。レーザー光により蛍光を発するタンパク質により、生きた根冠細胞の中で酵素の種類ごとに特定の蛍光パターンを示すように目印を付けておく。レーザー照射後、蛍光が消えるまでの時間(寿命)の測定データなどを手掛かりにして、時間の経過に伴う酵素群の空間的な配置の変化などを精密に画11 S E NTAN