ブックタイトルSENTAN せんたん SEP 2021 vol.30

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概要

SENTAN せんたん SEP 2021 vol.30

奈良先端大OB・OGに聞く今年の6月に熊本大学大学院の准教授に就任し、日々奮闘しております。私は学位をいただくまでの約5年間、奈良先端大バイオサイエンス研究科(当時)の橋本隆教授の研究室でトレーニングを受けました。博士前期課程では植物のねじれという形態異常の原因となる遺伝子変異を探索し、細胞の形を支える構造物の微小管にたどり着きました。博士後期課程ではこのテーマをさらに掘り下げるため、何種類もの顕微鏡を使って微小管を分析し、植物が正常な形態を作り上げるために個々の細胞や分子がどのように働いているかを研究しました。学位取得後は理化学研究所の研究員になり、特殊な細胞周期である核内倍加の研究で学会賞を受賞するなど、奈良先端大で培った力を存分に発揮することが出来たと思います。その後、1年間奈良先端大でバイオマスの研究をしてから熊本大学に移りました。熊本大学ではペプチドホルモンや昨年のノーベル化学賞の対象になったゲノム編集のCRISPR-Cas9などの研究を行ってきました。振り返ると、その時々の研究課題に精一杯で、一貫した研究テーマを持っていたわけではありません。しかし、内心ではしっくりくるものの見方や解像度など研究の「軸」となる確かなものがあり、楽しんで研究出来たものとイマイチなものとがありました。今、どのような研究を行うかを自分で定める立場となりましたが、自分にとっての研究の「軸」は「細胞という解像度から生物の仕組みを考える」という奈良先端大での博士課程で確立された視点だと考えています。今後の研究では、自分に備わった「軸」に真摯に向き合い、一番楽しいと思えるところで懸命に取り組みたいと思います。昨今はアカデミアで生き抜くことが難しい時代と言われ、私自身の経歴も決して順調とは言えません。今思えば、若いうちからキャリア形成をしっかり考え取り組んでいた友人達と比べると、自分は余りにも楽観的な(あるいは呑気な)心構えで研究の世界に飛び込んでしまったように思います。しかし、そのような空っぽの頭に、知識や技術だけでなく研究者としての人格を叩き込んでくれたのが、奈良先端大でした。当時の先生方や研究環境、友人達との切磋琢磨の思い出は以前にも書きました(バイオサイエンス領域Web site、卒業生の声)。それから10年以上経ちましたが、奈良先端大はその間もずっと、バイオサイエンス領域において世界トップクラスの研究拠点であり続けています。OBとしては誇りに思いますし、同時に、研究者としては奈良先端大が目標・憧れの地でもあります。現在奈良先端大に在籍されている皆様には、ぜひとも今の姿を維持するとともに、これまで以上に「せんたん」に向けて、走り続けていただきたいと願っております。研究室にて3月に発表した、クマモナミド関連化合物をシロイヌナズナに処理した様子。微小管機能の異常に伴う「ねじれ」が生じ、根をまっすぐに伸ばすことが出来ない。「知識や技術だけでなく研究者としての人格を叩き込んでくれた」最後に宣伝です。今年の3月に、10年以上ぶりに植物の微小管に関わる研究を発表しました。恩師である橋本先生にもご協力いただき、望外に楽しく研究を進めることが出来ました。少しだけですが、ご恩返しができたかな、と思っております。石田喬志Takashi Ishida熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)准教授Profile: 2007年度博士後期課程修了(バイオサイエンス研究科植物細胞機能研究室)S E NTAN20