ブックタイトルSENTAN せんたん SEP 2018 vol.27

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概要

SENTAN せんたん SEP 2018 vol.27

知の扉を開くエネルギーのうち、基質を変形させてエネルギーを外に放出しながら、極性形成を行う仕組みをとらえたことになる。「この研究は既存の数理的概念を当てはめる方法では不可能で、生物学の研究者との根気ある議論が非常に重要だった」と述べる。このほか、脊椎動物が受精卵から発達する際にできる体節という細胞のかたまりにおいて、環境が変動しても細胞同士は頑健に同調して特定のタンパク質を生成する原理や、細胞同士が力学的にコミュニケーションをとって血管組織をつくる原理にも迫っている。また、データサイエンスの応用として、ヒトの呼気に含まれる成分を解析して病気の診断を行ったり、生物実験で直接観測できないものを機械学習で推定したりする研究も行っている。の増殖から分化に切り替わる時点でどのようなシステムが働いているか、数理モデルにあてはめてわかってきました。この実験方法の有効性についても提唱していきたい」と意気込む。プラモデル好きの少年だった国田助教は、大学に入って当初はロボットなどの制御理論を学んだが、その時から「生物のシステムを深く知り、自分で再構成したい」という思いがあってシステム生物学に。「外部から細胞を制御し、再生医療などに役立てる研究も考えています」と話す。研究のモットーは「素人発想・玄人実行」。▲分子ネットワークを用いた細胞分化の制御生物学のワクを越える▲細胞は取り込んだ栄養からATPを生成し、ATPから化学ポテンシャル、力学エネルギー、物体の変形による弾性エネルギーとあらゆる形に変換していく。取り込んだ栄養のうち、一部が基質の弾性エネルギー等で細胞外に放出され、残りは細胞変形を含む機能に利用される。全体としてのエネルギーは変化しない(エネルギー保存則が)栄養は減少し(、細胞にとっては使えない)他のエネルギーが増えていく(エントロピー増大則)。細胞機能(および生体機能)はこうしたエネルギーの流れの中で発現している(非平衡開放系)。作村研究室では、輸送⇒力⇒変形のエネルギー変換を定式化した。とにかく楽しもう作村准教授は、高校生のときに英国のスティーブン・ホーキング博士に魅かれて宇宙論の研究を志した。その後、もう一つの宇宙でもある脳・神経科学に興味が移り、情報科学の立場から研究を重ねた。現在の細胞生物学とのかかわりは、本学に初めて赴任した2000年から数年後に、中庭の池の端で出会った稲垣教授から、数理モデルの作成を依頼されたのがきっかけだった。「生物と数理・物理との融合研究は実物を十二分に理解することが大切だと気づきました。これからも、生命現象がさまざまな物理要素で成り立っていることを解明していきたい」と抱負を語る。研究のモットーは「とにかく楽しもう。そうでないと意味がない」。22万キロを走破した愛車でドライブに出かけるが「そのときも雪道など路面の状態を考え、細胞の動きと結び付けています」と話す。学生らは物理の視点から提起されるバイオの新領域に果敢に挑んでいる。片山東さん(修士課程2年生)のテーマは、細胞の分化などに関わる多機能タンパク質に反応する遺伝子。「数理解析や統計処理の手法を使うので新たに自分の研究を見直すことができます。機械学習の手法など他の分野に進んでも役に立つので、納得できるまで習得していきたい」と研究一筋の意欲を見せる。大木雄一朗さん(同)は、モデル動物のゼブラフィッシュの血管が成長するさいに、前後に連なった複数の細胞の相互作用を調べている。「分野を融合して幅広い視野からの研究ができるのがとてもよく、世の中を驚かせるような成果を上げたい」と意気盛ん。吹奏楽部でクラリネットを演奏していたことから、コンピュータ音楽の作曲も手掛け、趣味は情報系だ。入谷紗瑛さん(同)は、神経細胞の軸索が正しい方向に伸びるシステムをデータの数理解析などで探りつつある。「生物学にとらわれず物理などさまざまな分野に広げて考えることを学びました。本学は情報科学領域の学生と合宿で勉強会を開くなど、フレンドリーに交流できます」と話す。長く続けているエレクトーンは店頭でデモ演奏ができるほど上達し、研究生活の癒しになっている。分子ネットワークの同定と制御▲片山東さん▲大木雄一朗さんまた、国田助教は、神経細胞に分化する前駆細胞を用いて、細胞内のタンパク質や遺伝子の分子ネットワークを解析し、分化に導く過程を調べている。一定の時間間隔で自動的にサンプルを採取して測定する分注ロボットから得られる膨大な実験データに対して数理解析を行っている。分化の前後で時間の経過によって、どのような順番でどの分子間が活発に発現しているかなどの関係性を調べ、細胞内の分子ネットワークの詳細を明らかにする。「細胞▲入谷紗瑛さん?バイオサイエンス領域計算生物学研究室http://bsw3.naist.jp/courses/courses311.htmlS E NTAN0 8