2020/01/16
立体造形物に電子透かしを埋め込む技術を開発
~3Dプリンタでの作成技術を応用 市販のスキャナでの読み出しも可能に~
インターネットサービスとの連携や効率的な製品管理に期待
【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 情報科学領域 光メディアインタフェース研究室のArnaud Delmotte(アルノー デルモッテ)氏(博士後期課程3年)、向川康博教授、舩冨卓哉准教授、久保尋之助教、田中賢一郎助教のグループは、3Dプリンタで作成した立体的な造形物に密かに製品管理に必要な情報を埋め込み、その情報が必要な時にファックスのような読み取り装置であるドキュメントスキャナを使って取り出す技術を開発しました。造形物の形をほとんど変えず、製品番号などさまざまな情報を埋め込むことができるうえ、市販のスキャナで簡単にその情報を取り出せることから、実用的な電子透かし技術として、インターネットサービスとの連携や効率的な製品の製造・流通管理などへの応用が期待されます。
3Dプリンタの主な方式の1つに、樹脂を熱で溶かしながら造形物の断面図に沿って積層する、熱溶解積層(FDM)方式があり、通常、厚みが一定な層を形成するように樹脂を吐出しながら造形します。今回、開発した技術では上下に隣り合った2つの層をペアとして、2層を組み合わせた厚みを一定に保ちながらも、埋め込む情報に応じて両者の厚みのバランスを変化させ、「0」「1」の2進法で表すデジタル情報を表現できるように制御して造形を行います。表面に刻むのではなく、層の厚みのバランスを制御するため、造形物の外形そのものにはほとんど影響を与えません。
また、造形物をドキュメントスキャナで撮影することで、樹脂の層の厚みを精細に画像化することができます。今回は層の厚みの変化を検出する画像処理技術も開発し、埋め込まれた情報を取り出すことができるようになりました。
この研究成果は、2019年12月25日付で国際学術誌IEEE Transactions on Multimedia(TMM)にEarly Accessにてオンライン公開されました。(URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/8943311)
【背景と目的】
画像や音声などのデジタルコンテンツに付加情報を埋め込む技術は「電子透かし」と呼ばれており、著作権保護や改ざん検出などに役立てられており、近年では3次元モデルに対する電子透かし技術も研究されています。バーコードやQRコードのように埋め込まれた情報が直接見える方式もありますが、コンテンツそのものに付加情報を紛れさせ、利用者には知覚されず、コンテンツそのものと不可分なものとして情報を埋め込む技術も多く研究されています。また、デジタルコンテンツだけでなく、その印刷物などに対しても透かしを埋め込む技術も研究されています。
本研究では、近年のデジタルファブリケーション技術の普及を受け、3Dプリンタによる造形物に透かしを埋め込む技術、特に、造形物の本来の機能を損なわないよう、その外形への影響をできるだけ抑える技術の開発を目指しました。
【特徴】
3Dプリンタにはいくつかの方式がありますが、主な方式の1つに、樹脂を熱で溶かしながら断面図に沿って土器を作るように積層する、熱溶解積層(FDM)方式があります。この方式では、熱で溶かした樹脂を吐出するノズルを制御して、厚みが一定な層を積層していくことで、所望の形状を造形します。通常、層の厚みが一定(図 3左上)になるよう樹脂の吐出量を制御しますが、本技術で敢えて層の厚みを変化(図 1)させるよう吐出量を制御することで付加情報を埋め込みます(図 2)。造形物の外形への影響を抑えるため、本技術では重なった2層を組として、埋め込む情報に応じて厚みのバランスを変化させるよう制御して造形を行います(図 3右上)。層の厚みは0.2ミリ程度であるため、数ミリから数センチの比較的小さい領域でも情報を埋め込むことができます。
情報の取り出しには層の厚みの違いを検出する必要がありますが、本技術では一般に普及しているドキュメントスキャナを活用した情報取り出し技術を開発しており、特殊な装置が必要ありません。熱溶解積層方式の造形物の表面には樹脂の層により微細な凹凸ができますが、ドキュメントスキャナでこれを撮影すると凹凸の陰影を捉えることができます(図 3下)。この陰影から厚みのバランスの変化を検出し、そのパターンから情報を取り出します。
【今後の展開】
本技術ではさまざまな付加情報を埋め込むことができるため、造形物にURLを埋め込むことでインターネットサービスと連携させたり、固有のIDを埋め込むことで製造・流通管理に役立てたりすることが可能と考えられます。
【用語解説】
3Dプリンタ:3次元のデータから立体物を作製する装置。特に多品種少量生産に向いており、近年急速に普及している。
ドキュメントスキャナ:ファックスやコピー機などに用いられる文書や写真などを読み取りデジタルデータとして出力する装置で、主に平面を撮影するよう設計されている。
電子透かし:デジタルコンテンツや印刷物などを対象に、付加的なデータを埋め込む技術。人には知覚できないように埋め込まれ、特殊な計測や情報処理を経ることで取り出すことができる。
【論文へのリンク】
naister(NAIST Academic Repository):http://hdl.handle.net/10061/13958
英文Title: Blind Watermarking for 3D Printed Objects by Locally Modifying Layer Thickness
DOI:https://doi.org/10.1109/TMM.2019.2962306
【本プレスリリースに関する問い合わせ先】
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科
情報科学領域 光メディアインタフェース研究室 教授 向川康博
TEL:0743-72-5280 E-mail:omi-staffs〔at〕is.naist.jp