
極地でコミュニケーションの大切さを実感
4月17日(木曜日)に実施した「学長記者懇談会」にて、本学の塩﨑一裕学長と、第65次南極地域観測隊に隊員として参加し4月に帰任した本学人事課職員の山岡麻奈美さんが対談を行いました。南極観測を続ける国立極地研究所の公募に応募して第65次南極地域観測隊に参加した山岡さんは、極寒の地で1年4カ月にわたる南極における業務での得難い経験を披露し、限られた集団の中でのコミュニケーションの大切さなど貴重な教訓をいまの職場でも生かしたいと話しました。
1年を超える越冬生活
塩﨑学長 まず、越冬隊と山岡さんの南極での職務について紹介してください。
山岡係員 第65次の南極地域観測隊の越冬隊のメンバーは27人。令和5年11月下旬に南極観測船「しらせ」で出発し、年末ごろに、南極の昭和基地に到着しました。その頃南極は夏季で、白夜と呼ばれる太陽が沈まない時期なので、輸送や建設などの設営作業と、気象、大気をはじめとする観測活動を並行して進めます。夏が終わると越冬生活を開始し、約1年間、南極で活動します。越冬隊は大きく観測系と設営系の職員に分かれます。私は設営系で庶務と広報を担当していて本学とは全く異なる環境での職務でした。
重機の免許も取得
塩﨑学長 南極に出発するまで、日本での準備期間はどのように過ごしましたか。
山岡係員 1年間の研修期間があり、文部科学省の海洋地球課で南極観測に関する予算編成の組み方など、国立極地研究所では、越冬物資の調達・梱包、物資輸送のための重機の資格の取得など実務を学びました。
塩﨑学長 予算編成など準備段階から、重機の資格など実施段階まで、南極観測全体のプロセスが事前に見えるような研修ですね。それ以外に自ら気になったことや心構えなど、何か準備はしましたか。
山岡係員 私の働く上でのマインドは、日本であろうと南極であろうと、ただ働く場所が異なるだけで、大きくは変わらないと思っているので、特別なことはしませんでした。
塩﨑学長 極地の氷点下の寒さはどうですか。私は奈良先端大に赴任するまでは、温暖な米国カリフォルニア州に住んでいたので、奈良は冬になるととても寒いと感じていました。
山岡係員 私も寒がりの方ですが、環境の変化に適応しやすいのかもしれません。昭和基地では冬になると氷点下20度から30度に下がる日が多いのですが、氷点下10度台になると「今日は暖かいな」と感じていました。
塩﨑学長 研修時に重機の免許を取得されたそうですが、実際に使う機会はあったのですか。
山岡係員 研修中に「重機の免許を取得した方がいいよ」と言われたので、フォークリフトとパワーショベル、そして、クレーンに荷物を吊り下げるときの「玉掛け」の資格も取りました。観測隊の夏季の重要な仕事は輸送で、「しらせ」に積んでいた観測機器、食糧、燃料などを基地へ運び込むことから、すべての作業が始まります。そのときに、コンテナをクレーンで荷台に乗せるなどの作業で、フォークリフトの操作や玉掛けなどの知識が大いに役立ちました。

会話して交流を深める
塩﨑学長 山岡さんのバイタリティ、重機まで扱う仕事への対応力に感心するとともに、大学に戻って、今回の体験を生かして活躍してもらえると思うと本当に心強いです。隊の業務以外の場面で、心に残る情景や体験はありましたか。
山岡係員 心に残る情景としては、やはり、オーロラと天の川が空に輝く光景を見られたことです。オーロラは、白夜の夏季を除いて、晴れた日で条件が揃えば、高い確率で見られます。また、満天の星といっても、等級の低い星もはっきり見えるほど輝いていて、いま思い出してもその美しさは強く印象に残っています。
塩﨑学長 素敵な体験をされましたが、逆に、何か困ったという経験はありますか。
山岡係員 いつの間にか指先が凍傷になってしまったことがあります。もちろん、防ぐための装備はしていたのですが、「まだ大丈夫」と思っているうちになってしまいました。
塩﨑学長 極地の想像を超える寒さに、感覚が追い付かなかったのでしょう。ところで、冬季の外部から閉ざされた生活環境の中で、隊員同士がさまざまな場面で協力するために、どのような配慮をされましたか。
山岡係員 隊員同士の会話によるコミュニケーションがとても大切だと思いました。大学でも同じですが、単独でできる仕事はなく、何をするにも誰かの協力が必要です。そのためには、業務を離れた食事など生活の場でも、対話を絶やさず、相手を知り、その気持ちを推し量って行動することの大切さを実感しました。
塩﨑学長 越冬隊としても、隊員のコミュニケーションを促進するよう工夫や取り組みはありましたか。
山岡係員 レクリエーションやイベントの開催のほか、隊員が店員になって週1回開かれる「バー」もありました。そんなとき、積極的に話しかけ、日ごろから円滑なコミュニケーションを取るように心がけました。

自分の役割分担を越えたコミュニケーションが必要
塩﨑学長 4月から大学の人事課に勤務されていますが、越冬隊での経験をどの様に活かしたいと思っていますか。
山岡係員 大学では、人事課で教職員の採用から退職に至るまでの手続きなどを担当しています。その中で、自分が組織を構成する一員であることを自覚しながら、互いに相談しやく、働きやすい環境を作っていきたいという気持ちがあります。
塩﨑学長 南極観測隊を経験されて、組織の中での自分の行動、役割をより強く意識するようになったのかもしれません。大学でもそれぞれの部署で役割分担がありますが、各人の役割の枠組みを越えるようなコミュニケーションは、やはり重要ですね。
※所属は対談時のものです。
