イベント報告 2008/04/09
4月4日(金)、ミレニアムホールにおいて平成20年度入学式を挙行しました。
本学では、国内外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、高い基礎学力をもった学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、各々の研究分野に対する強い興味と意欲をもった者の入学を積極的に進めており、このたび、426名の新入生を新たに本学に迎えました。
当日は、奈良県知事及び生駒市長等を来賓に迎え、また本学入学式では恒例となった茂山家による狂言演能(大蔵流狂言『寝音曲(ねおんぎょく)』)を行い、奈良の伝統芸能で盛大に新入生の門出を祝いました。
【入学者数】
(博士前期課程)
情報科学研究科 139名
バイオサイエンス研究科 124名
物質創成科学研究科 98名
計 361名
(博士後期課程)
情報科学研究科 26名
バイオサイエンス研究科 21名
物質創成科学研究科 18名
計 65名
総計 426名
【安田学長式辞】
本日、奈良先端科学技術大学院大学に入学されました博士前期課程、博士後期課程の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。ご両親や御家族の皆様にも心からお喜びを申し上げます。本学の役員、研究科長、教職員や学生とともに、心からお喜びを申し上げます。本日は来賓として、奈良県知事荒井正吾様、生駒市長の山下真様、本学支援財団専務理事の福森孝司様には、公務ご多忙にもかかわらずお祝いに来て頂きました。ご紹介を兼ね厚くお礼申し上げます。
本学は、平成三年十月一日に創立され、今年で十七周年を迎える極めて若い大学です。本学は、設立当初から学部を持たない大学院大学として明確な目的をもって出発しています。国の人材育成機関として大学はその役割が法律で明確に定められています。「大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、文化の発展に寄与することを目的とする」と定められています。本学は、「情報、バイオ、物質とそれらの融合領域の最先端の学術分野における研究を推進」、し「その最先端の研究成果に基づいた高度な教育による人材養成」、そして「科学技術の進歩と社会の発展への寄与」するという三つの目的をもっています。また、本学は、入学者受け入れ方針・アドミッションポリシーに、「学生、社会人、留学生や学部時代の出身分野を問わず、将来に対する明確な目標と志、各々の研究分野に対する強い興味と意欲をもった者の入学を積極的に進める」を掲げています。皆さんはそれぞれ独自の興味の対象をもち、長年の疑問を解明したい、あるいは新しい知識や技術を修得し、企業で活躍したいという目標をもって入学されたと思います。大学院で重要なことは、「疑問点を科学的に明らかにしたい。何か新しいものを作りたい。社会に役立つことをしたい」すなわち「どう生きたいか」という明確な研究の目標を持って行動することです。大学院は義務教育課程ではありません。受動的な態度で、教育を受けるのではなく、自ら積極的に学習するという強い意思を持ってください。私たちの脳細胞の数は、約十五億個あるといわれていますが、使っても使わなくても毎日約十万個の脳細胞が死んで生きます。脳の神経細胞は使えば使うほど、すなわち知的に刺激し、知的戦いを通して、ネットワークを形成し、その能力は増大して行きます。学ぶべきことは無限にあり、学ぶことの連続が人の一生で、その人の生き方です。そのためには、常に「何事にも興味を持ち、疑問を持ち続けること」が、第一です。そのためには、常に「未知のことを知りたいというアンテナを張り、疑問があれば調べ、質問すること」です。知らないから大学院に入学したのですから、知らないことを恥じずに、積極的に質問してください。皆さんの中で眠っている才能や能力を、本学で最大限伸ばし、人生を豊かなものにしてください。皆さんに努力する強い意思さえあれば、本学の教職員は最大限の協力を惜しみません。本学には、皆さんの才能や能力の開花を妨げる物は何一つありません。
しかし、アンテナを張り考えているだけでは不十分です。研究のアイデアを考えつくことは誰にでもできることです。しかし、そのアイデアを具体的な成果に結びつけるための行動を取ることが一番大事です。すばらしい研究成果が論文に発表されたとき、そのアイデアなら自分も思いついていたという経験をされるでしょう。アイデアを思いつくだけでは研究にはなりません。そのアイデアを誰が見ても確かだと納得させる実験データや新材料を創成し、公表することが、研究者という職業には要求されます。これができて初めて、研究のプロになる第一歩であり、資格です。アイデアを思いついているだけでは、アマチュアです。皆さんは若い柔軟な思考能力をもっています。若い斬新なアイデアを具体化し、成果にまとめる訓練を日々積んでください。皆さんの斬新なアイデアを実現できる、すばらしい研究環境を本学は提供しています。
先端科学分野では日々情報が増大し、専門性の幅がますます狭くなり、専門性の高い知識や技術が研究の現場でますます要求される現状にあります。しかし、専門性の高い先端科学の開拓に、専門性の獲得に加え、より広い考え方や知識が必要です。本学では先端科学に必要な共通科目として、情報、バイオ、物質の基礎的な授業を提供しています。是非積極的に、これらの授業を受けて下さい。多面的な思考能力が習得できます。専門分野での研究の展開に限界を感じたとき、別の視点から研究を攻めるアイデアをつかむきっかけとなり、将来必ず役に立つ機会があります。そのためには、直接の指導教員は言うまでもなく、優れた教員、同僚や先輩の方々と議論を交わせる人脈のネットワークを作って頂きたい。人は皆異なる人生を歩んできました。私たちは皆異なる個性や能力を持っています。それぞれの個人が、他人が持たない情報や思考法の宝庫です。このような人たちと意見を交換し、議論することによって、多様な視点にたつ考えを習得していけば、研究を広い視野から進めていくことができます。「百聞は一見にしかず」です。できるだけ、他の研究室に出入りし、そこの研究を知ってください。「何かを学ぶためには、自分で体験する以上にいい方法は絶対にありません」。それは、問題点を異なる視点から見直すことができるからです。
皆さんは若い。先は長く、時間は十分あると思っていると思います。しかし、今ほど様々な情報が豊富でなく、時間を費やす物事がほとんどなかった何百年も前から、いかに人の一生の時間が短いかが、昔のことわざや成句になっています。「光陰矢のごとし」と言います。また、「少年老い易く学成り難し」ともいいます。学問を修めるために、時間がいかに早く過ぎ去っていくかを現しています。二十台の皆さんは、一日がいかに長く、何をして過ごすかと言うことに悩まれているかもしれません。しかし、年齢を重ねるにつれ、一日が早く過ぎ、今日も何もしなかったと思う日を過ごすようになります。年とともに、一日の時間の流れが速くなっていきます。本学在学中に無駄な時間を過ごさず、先端科学技術に関わる研究者や技術者になるために必要な勉学や研究に励み、日々精進してください。
文明や科学技術の進展と社会のありようについても考えていただきたいと思います。私たち人類は、文明や科学技術の進展とともに便利なものを手にしますが、一方多くのものを失っています。人間として備えておくべき倫理観、日本の歴史、神社仏閣の知識も、広い視野を養う上で重要です。二年後の平成二十二年、西暦二千十年に、奈良は、平城遷都千三百年の記念事業を計画しています。約千三百年前の奈良時代には、奈良は政治、経済や学問の中心地であり、一大国際都市でした。奈良斑鳩の地には、近代俳句で有名な正岡子規が「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」と俳句に歌った世界最古の木造建築物、法隆寺があります。聖徳太子で有名な法隆寺は、創建時の建物は焼失したという記録がありますが、少なくとも建立約千三百年の世界でも類例のない保存の良い木造建築で、日本で最初の世界遺産に選ばれました。本学から、丁度真南六キロメートルの所にあります。建物や仏像を含めて国宝の宝庫です。その見事な五重塔や金堂、金堂にある釈迦三尊像、薬師如来像、観音菩薩立像など枚挙にいとまがありません。千年以上も前に、このような美しい建物の設計図は、構造計算は、建築の指揮系統はどうであったのか、また、現在でも美しいと感じる仏像彫刻の技術習得の教育はどうしていたのか、様々な疑問がわき、私たちの思考を鍛えてくれます。また、日本人に限らず、人との交流にはこのような知識が多いに役立ちます。
本学がある生駒市にも国宝があります。本学から富雄川を約二キロメートル南に下がった所に長弓寺というお寺があります。平城時代、この辺り一帯は狩猟場でした。ここ高山も今は高い山と書きますが、昔は鳥の鷹の山と書きました。鷹が多い土地であり、その餌となる小鳥や小動物がたくさん生息していたのでしょう。また鹿畑という地名は鹿が多かったとことに由来し、この鹿畑の鹿が現在鹿で有名な春日大社に奉納されたと文書にあります。国宝長弓寺の由来について紹介します。仏教に帰依し、東大寺建立で有名な聖武天皇に関わりがあります。聖武天皇が、この地に狩猟に訪れたとき、小野真弓長弓という豪族と子供が供にきていました。鳥が飛び立つのを見て子供が弓を射ったところ、その矢が父長弓に当たり、亡くなりました。聖武天皇はこの親子を哀れんで、東大寺の大仏造営にあたった僧行基にお寺を開かせたという言い伝えがあります。長い弓と書いて、たけゆみと読みますが、死者の名にちなんで長い弓の寺と書いて長弓寺と名付けました。鎌倉時代建立の本堂が国宝になっています。また、明治時代の初めに廃仏毀釈があり、それまで日本土着の神と仏を同時に祭ってきた神仏習合の風習が廃止されたのですが、この長弓寺には神社と寺が同じ敷地に現在も隣り合って存在しています。創建当時に長弓寺の鎮守として建てられた神社、伊射奈岐神社が残っています。研究に疲れ時間のあるときに訪れて、千年以上前の歴史をたどってみるのも広い視野を養うためにも良いのではないでしょうか。歴史は継続していますので、どこか興味あるところを手始めに、日本の、奈良の歴史について造詣を深めることとも、奈良の地にある本学で勉強する良いきっかけではないでしょうか。
本日の晴れやかな希望に満ちた気持ちを持続させ、本学で世界の最先端の研究に従事するとともに、日本の古い文化や歴史にも学び、地球と人類の持続的な発展が可能になるような研究に取り組んでください。本学で、ぜひ皆さんの才能や能力を最大限伸ばし、今後の人生を豊かにできる能力を身につけてください。人生の目標を明確に立て、着実に実行し、大学院生活を充実したものにして下さい。皆さんが日本に止まらず世界の舞台で大いに活躍することを期待し、皆さんへの私の式辞といたします。
本日は入学おめでとうございます。
平成20年4月4日
奈良先端科学技術大学院大学
学長 安田 國雄