研究成果 2011/05/18
本学バイオサイエンス研究科植物細胞機能研究室の中島敬二准教授の研究グループは、根の特定の細胞で作られる物 質(マイクロRNA)が組織内に広がって濃度勾配を作り、細胞の分化や、維管束など水分の吸収にかかわる複雑な組織配置を決めるという重要な機能を担って いることを世界で初めて明らかにしました。この小さなRNAは、周囲の細胞へと拡散して作用しますが、その濃度が薄まって作られる勾配が、細胞間の距離を 測るために巧妙に利用されるという新メカニズムも分かりました。今後、根の機能の強化につながる可能性もあります。この研究成果は、 Development(英国の国際的発生生物学専門誌、インパクトファクター7.6)の6月号に掲載されました。
RNAと言えば、ゲノ ムDNAの情報を写し取り、タンパク質の生産につなげるメッセンジャー(伝令)RNA (mRNA)が良く知られています。これとは別に、生物の細胞内には、特定のmRNAを分解するためにだけ存在する小さなRNA分子が存在することが約 10年前にわかりました。これらはマイクロRNA (miRNA)と呼ばれます。これまでマイクロRNAは、それが作られた細胞でのみ働き、他の細胞には移動しないと考えられていました。
昨 年、海外の研究グループが、モデル植物のシロイヌナズナの根で、miRNA165と呼ばれるマイクロRNAが細胞間を移動する可能性を報告しました。中島 准教授らは、根の特定の細胞層だけで一定量のmiR165を作らせ、その生産量と、まわりの細胞での活性の分布を同時に視ることができる形質転換植物を 作って研究を行いました。その結果、miR165が確かに細胞間を移行しており、また移動先でのmiRNA165の濃度が、その細胞の分化(特定の機能や 形を持つこと)の決定に重要な機能を果たしていることを明らかにしました。また、根の中に作られるmiR165の勾配が、同心円状の組織配置に重要な働き をしていることを明らかにしました。
この研究成果は、これまで細胞間を動かないとされてきたマイクロRNAが、植物の細胞間を動くことを 明確に示しただけでなく、それによって作られるマイクロRNAの濃度勾配が、細胞間の相対的な距離を測る手段として利用されている、という新しい発生メカ ニズムを示しました。