イベント報告 2011/07/01
6月24日(金)、事務局棟2階大会議室において学位記授与式を挙行しました。
9名の修了生に対して、磯貝学長から出席者一人ひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。
式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分かち合っていました。
※ 今回の修了生の内訳は、以下のとおりです。
【博士前期課程修了者】
情報科学研究科 2名
計 2名
【博士後期課程修了者】
情報科学研究科 4名
バイオサイエンス研究科 3名
計 7名
総計 9名
【磯貝学長式辞】
本日、平成23年度第1回の学位記授与式にあたり、修士の学位及び博士の学位を得られた修了生の皆さんに、本学教職員はじめ、全ての構成員を代表してお祝いを申し上げます。
皆さんはこれまで、本学の博士前期課程及び博士後期課程で勉学するとともに、先端科学技術分野の研究において立派な学位論文を書かれました。お渡しした修 了証書は、それぞれの学位に相応しい知識と能力を持っているという認定の証しです。これまでの皆さんの努力に学長として敬意を表したいと思います。
本学はこの10月に創立20周年を迎えることになりますが、学位を本日授与された皆さんを含めて本学が開学以来これまでに与えてきた学位の数は、修士 5229名、課程博士990名、論文博士39名であります。皆さんは、こうした本学修了生の一員として、これから社会の色々な分野で活躍していくことにな ります。
本学が第一期中期計画期間中の国立大学法人評価でたいへん高い評価を受けたということは、これまでも何度も話してきたことです が、さらに最近、国立大学法人の大学実態調査の中で、教員の中の37才以下の若手教員の割合が、本学は39%と、2位の北陸先端大の28%を大きく引き離 して第一位であると報告されました。今日本の大学の中では、若手研究者のポストが少ないことが問題とされていますが、本学は大学自体が若いだけでなく、若 い人たちが多い、若い人たちを育てる、優れた大学であることが、色々な指標で社会的にも認知されていると思っています。皆さんはこうした大学院を修了した のです。そのことは、皆さんが誇りに思っていいことであります。
さて、修了式にあたり、最近考えていることを少しお話しします。
皆さんご存知のように、この3月11日、東日本大震災が発生し、大津波によって多くの人々が亡くなりました。さらに、福島原発で炉心溶融という大事故が起 き、今なおその収束への道筋は付いていません。寺田寅彦が「天災は忘れた頃にやってくる」といったといわれていますが、今回の大地震と大津波はまさに天災 でありましょう。改めて、亡くなられた方々におくやみを、また、今なお避難生活を送られている皆様にお見舞いを申し上げたいと思います。今回の地震や津波 による被害は範囲が広範であるため、地域の産業や人々の生活が元に戻るには相当の時間がかかりそうです。科学技術の進歩によって社会が近代化すればするほ ど、こうした大災害による被害が甚大になることを改めて知らされました。一方、地震と津波の結果として生じた原発事故は、これは、天災ではなく人災である といわれています。大勢の方々が原発事故の収束に向けて努力されているものの、その道筋は明らかではなく、今後も放射能を放出し続けるであろうことを考え ると、暗澹たる気持ちになります。
地震によって原子炉は設計通り、停止したといわれています。しかし、その後、原子炉を冷却し続けなけ ればいけないシステムが津波(と地震)によって破壊され、炉心溶融(メルトダウン)どころか原子炉貫通(メルトスルー)が起きてしまいました。当初、こう した事故の原因として、津波の高さが「想定外」であったためであると報道されました。しかし同程度の津波がこの地域を襲ったことがあるという記録から、大 津波への対応が要求されていた経過が明らかになってくるにつれて、これは、システム設計のミスによる人災であると、考えられるようになりました。原子炉事 故の時の対策の原則は、止める、冷やす、閉じ込める、の3点であるといわれていますが、こうした一連のシステムを、色々なケースを想定して構築しておくこ とが、技術としての安全を担保することになったはずです。しかし、今回、その冷却システムが破綻したことはシステム設計のミスであり、これは人災であると いわざるを得ません。技術という観点からいえば、想定外という言葉は使うべき言葉ではなかったはずです。
一方、実態が明らかにならない まま、風評被害という現象が今回も発生しているようです。科学技術に基盤を置く社会にあっては、正しい情報、正しい知識、正しい判断、こうしたものが、政 府や、学術界、国民の間にあることが、風評被害を防ぐためには必要であります。その意味でも、風評被害は安全の問題ではなく、安心の問題であろうと思いま す。「安全は科学の対象だが、安心は宗教問題だ」という話があります。安心というのは、それぞれの人の、心の持ちようだという意味であろうと思います。本 年度から始まるべき第4期の科学技術基本計画については、現在、大震災を受けて再検討がなされておりますが、この中で、第3期科学技術基本計画には存在し た、安心・安全という言葉はなくなり、安全という言葉だけが科学技術の対象として残されることになるといわれています。しかし、現代の社会の中で、科学技 術に対する漠とした不安感、つまり、安全であるといわれても安心できない感覚は、科学技術者と一般の人々との乖離を示しているのだと思います。こうした現 象は今後の社会を考えたとき、大変重要な問題です。
私達先端科学技術を学ぶものとして、科学技術としての安全の問題に取り組みながら も、その内容をよく説明し、人々の科学リテラシーを高め、世の人々が科学技術の成果を正しく認識し、安心感をもってそれを見ることが出来る社会の構築にも 努める義務があるのだろうと思います。そうした社会の科学力を高める活動無くして、科学技術立国はあり得ないはずです。それは本来科学技術基本計画の主要 な課題なのではないかとも私は考えます。
私達の世代は、第2次大戦のあとの日本において、戦後からの復興という合い言葉で努力して日本 の社会を発展させ、その国際的地位を高めてきました。今回の大震災と原発事故は、こうしたこれまでの国の在り方や経済発展ということについての発想をこれ からは大きく変換していかねばならない契機となりました。戦後に変わる、震災後という意味での震後ということさえいわれます。その震災後の日本の社会はや はり科学技術に依存した社会でありましょう。しかし、その中では、社会のありかたの原理自体がこれまでとは根本的に変わって来ざるを得ないであろうと思い ます。その震後の日本を支えるのは皆さんの世代です。特に大学院という高度な研究教育の場で科学技術を学んだ皆さんは、この日本の社会の再構築に際して指 導的な立場で活躍することが期待されています。皆さんそれぞれが、常に科学技術と社会との関わりを考えつつ、それぞれの立場でこれからの震後の日本の新た な国づくりにご尽力ください。そして、そうした皆さんの活躍が、本学が社会に貢献している大学であることの証しになり、本学の将来をつくっていくことにも つながります。こうした社会的な活動の中で、皆さんが今後も健康で意義のある人生を送られますよう祈念して式辞と致します。
本日はおめでとうございました。
平成23年6月24日
奈良先端科学技術大学院大学 学長 磯貝 彰