研究成果 2011/08/01
花を咲かせる植物のホルモン(花咲かホルモン、フロリゲン)が葉で作られたあと、茎の先端部で受け取る受容体 を、本学バイオサイエンス研究科の島本功教授、田岡健一郎助教、大木出助教、辻寛之助教、大阪大学蛋白質研究所の児嶋長次郎准教授らが世界に先駆け発見し ました。[14-3-3]と呼ばれるタンパク質が受容体として働くことをつきとめ、さらにフロリゲンと受容体を含む複合体の立体構造を原子レベルの解像度 で決定したものです。フロリゲンと受容体との結合強度をさまざまに変化させることで、花を咲かせる時期を変化させることにも成功しました。
花 咲かホルモン(フロリゲン)は、植物が日長や気温などの環境の変化の刺激を受けて葉で作られます。そのあと、花を作る組織である茎の先端部に移動し、花を 咲かせるホルモンです。長い間正体不明の幻のホルモンと呼ばれていましたが、2007年に島本教授らによってフロリゲンの正体がHd3a(FTとも呼ぶ) と呼ばれるタンパク質であることが発見されました。しかし、フロリゲンが細胞内で作用し、花を咲かせるしくみや、フロリゲンと細胞内で結合する受容体の存 在についてはこれまでほとんど分かっていませんでした。
フロリゲンとその受容体はすべての植物に共通する普遍的な物質であることから、そ の発見は「花咲かじいさん」のように、好きな時に植物の花を咲かせる技術につながる可能性が示されました。将来的には不良環境でも穀物や果実を生産できる 技術の開発や、バイオ燃料作物の生産技術の開発への波及効果が期待されます。この成果は8月1日発行の英科学誌「ネイチャー」の速報としてオン・ラインで 掲載れました。
島本教授、児嶋准教授らは、イネの花咲かホルモン(フロリゲン)の実体であるHd3aタンパク質が複数のタンパク質と結合 して花を咲かせると考え、どのようなタンパク質と結合しているのかを調べました。その結果Hd3aは、真核生物に広く保存されている14-3-3タンパク 質や、DNA結合タンパク質のOsFD1と共に、Hd3a-14-3-3-OsFD1の3つのタンパク質からなる複合体 (フロリゲン活性化複合体)を形 成することを発見しました。この複合体の立体構造をNMR解析及びX線結晶構造解析によって明らかにし、精密なモデリング技術で解析したところ、複合体は 6量体であり、左右対称なW字型となってDNA上に結合していることが分かりました。さらに複合体が細胞内でどのように構築されるのかをバイオイメージン グ技術を用いて解析したところ、フロリゲンは、細胞質で14-3-3タンパク質に受容され、その後Hd3a-14-3-3複合体として細胞質から核内へと 移動し、OsFD1とさらに高次のフロリゲン活性化複合体を形成し、初めて花芽形成遺伝子を活性化できることが明らかになりました。この結果により、花咲 かホルモン(フロリゲン)Hd3aタンパク質の細胞内受容体は14-3-3であり、Hd3a-14-3-3-OsFD1複合体(フロリゲン活性化複合体) がフロリゲン機能の実体であることが示されました。