研究成果 2011/08/01
本学バイオサイエンス研究科 植物細胞機能研究室の中島敬二准教授の研究グループは、根や葉に分化した植物細胞を未分化の初期胚の状態へリセット(初期化)する能力をもつ遺伝子を発見 しました。動物のiPS細胞をつくるときのように発生プログラムを巻き戻し、分化多能性を持たせる遺伝子で、植物発生の基礎研究に重要であるのみならず、 有用植物や希少植物を効率的に繁殖させる技術に利用できる可能性があります。この研究成果は、米科学誌カレントバイオロジー(5-year impact factor, 11.4)のオンライン版に発表されました。
この遺伝子はRKD4と呼ばれ、転写因子(遺伝子から遺伝情報をメッセン ジャーRNAへ転写するさいに、その強さを調節するタンパク質)をコードしています。RKD4とよく似た遺伝子は様々な植物のゲノムに広く存在しています が、それらの機能はいずれもわかっていませんでした。中島准教授らは、モデル植物のシロイヌナズナにおいてRKD4遺伝子の破壊株を解析し、その胚の多く が初期胚で発生を停止することを見つけました。また、RKD4は受精卵から初期胚までのごく短い期間にだけ発現していることを確認しました。
さ らに、本来RKD4を発現しない発芽後の植物で、RKD4の発現を人為的にオン-オフできる実験系を用いて解析した結果、RKD4の発現をオンにすると根 や葉から未分化な細胞塊が形成され、そのような細胞では、初期胚でしか発現しないはずの遺伝子が多数発現していました。次にRKD4の発現をオフにする と、この細胞塊から胚が形成され、植物個体にまで成長させることができました。このことから、RKD4には、発芽後の細胞を初期胚へとリセット(リプログ ラミング)し、分化多能性を賦与する能力があることが分かりました。
植物では古くから組織培養によりカルスと呼ばれる未分化な細胞塊を誘 導し、そこから芽や根などの器官を作る技術が存在します。しかし、植物細胞を初期胚にまでリセットする方法は、これまで知られていませんでした。RKD4 遺伝子を使えば、発芽後の植物から初期胚の性質をもった細胞を大量に得ることができ、そこから成熟胚を経て短時間で植物個体を再生することができます。今 後、有用植物や希少植物などを効率的に繁殖させる技術の確立などに応用が期待されます。