研究成果 2011/09/26
イネの花を咲かせる植物のホルモン(花咲かホルモン、フロリゲン)をジャガイモに導入すると、花だけでなく、地 下茎にジャガイモが作られることを本学バイオサイエンス研究科 植物分子遺伝学研究室の島本功教授、玉置祥二郎研究員とスペイン科学技術省バイオテクノロジー研究所のサロメ プラット博士の共同研究グループが世界に先 駆け発見しました。
これまでフロリゲンは花を咲かせるホルモンとして知られていましたが、イネのフロリゲンにはジャガイモのイモを形成す る能力も持つことが明らかになったことは、フロリゲンが植物ホルモンとして花を咲かせるのみならず、植物が生長するさいにさまざまな働きを促進しているこ とになります。
花咲かホルモン(フロリゲン)は、植物が日長や気温などの環境の変化の刺激を受けて葉で作られます。そのあと、花を作る組 織である茎の先端部に移動し、花を咲かせるホルモンです。長い間正体不明の幻のホルモンと呼ばれていましたが、島本教授らは2007年にフロリゲンの正体 がHd3a(FTとも呼ぶ)と呼ばれるタンパク質であることを発見し、また今年8月にはフロリゲンが細胞内で作用し、花を咲かせるしくみや、フロリゲンと 結合する受容体ついて明らかにしました。
フロリゲンはすべての植物に共通する普遍的な物質であり、これまで好きな時に植物の花を咲かせる 技術につながる可能性が示されましたが、今回、植物によっては花以外の器官も形成され、これまで未解明の機能を持つことが示唆されました。今後さらにフロ リゲンの研究が進めば、ジャガイモの増産だけでなく、これまで知られていない植物の生長を制御できる新しい方法の開発が期待されます。将来的には農産物の 増産やバイオ燃料作物の生産技術の開発への波及効果が期待されます。この成果は9月25日発行の英科学誌「ネイチャー」の速報としてオン・ラインで掲載さ れました。
島本教授とプラット博士らは、フロリゲンがジャガイモを形成する因子として働くかどうかを明らかにするため、イネの花咲かホル モン(フロリゲン)であるHd3aタンパク質の遺伝子をジャガイモに導入しました。その結果、通常はイモを作らない環境条件で生育させたところ、多くのイ モを作ることを見つけました。詳しくイモの作られる仕組みを解析した結果、ジャガイモの植物において、葉で作られたイネのフロリゲンは維管束を通って地下 茎に運ばれ、その先端で効率よくイモを形成することが分かりました。このさい、イネのフロリゲンは接ぎ木を経て地下茎に移動しました。
また、イネのフロリゲンの導入により、ジャガイモにイモだけでなく花も地上部の茎に形成されることも明らかになりました。
ジャ ガイモが持つフロリゲン遺伝子を詳しく解析したところ、ジャガイモはイネのフロリゲン遺伝子と類似の遺伝子をふたつ持ち、ひとつはイモ、もうひとつは花、 と作る器官によって機能を使い分けていることが示されました。これらの結果から、これまでフロリゲンと呼ばれて来た花咲かホルモンは植物によっては、花以 外の器官を形成し、その生長を制御することが明らかになり、花を咲かせる以外の機能も持つ、新規な植物ホルモンであることが明らかになりました。島本教授 の研究グループではフロリゲンによってイネの茎の数が増えることを明らかにしており(未発表)、今回の結果と合わせ、フロリゲンの花を咲かせる機能以外の 働きについてもそのメカニズムの解明が期待されます。