イベント報告 2011/10/05
10月3日(月)、先端科学技術研究推進センター1階研修ホールにおいて平成23年度 秋学期入学式を挙行しました。
本学では、国内外を 問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、高い基礎学力をもった学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、各々の 研究分野に対する強い興味と意欲をもった者の入学を積極的に進めており、このたび、32名の新入生を本学に迎えました。
海外からの留学生も多数含まれていたため、当日は学長の式辞が行われている間、英語訳の式辞がスクリーンに映し出されました。
【入学者数】
(博士前期課程)
情報科学研究科 14名(うち外国人留学生 10名)
計 14名
(博士後期課程)
情報科学研究科 7名(うち外国人留学生 4名)
バイオサイエンス研究科 6名(うち外国人留学生 5名)
物質創成科学研究科 5名(うち外国人留学生 3名)
計 18名
総計 32名(うち外国人留学生 22名)
【磯貝学長式辞】
本日、奈良先端科学技術大学院大学に入学されました博士前期課程入学者14名、博士後期課程入学者18名、合計32名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。本学の教職員や学生を代表して、心からお喜び申し上げます。
また、本日の新入学生の中には、22名の海外からの留学生諸君が含まれています。母国を離れて、この日本で学生生活を送ることを決意された皆さんにも、深く敬意を表したいと思います。
既 に皆さんは、大学院を選ぶにあたって、皆さんがこれから生活しようとする本学について、色々な情報を得ていることとは思いますが、まず皆さんには、本学が この10月1日に創立20周年を迎え、多くの方々をお招きして記念式典を開催したことをお伝えします。そこでは、多くのご来賓の方々から本学のこれまでの 発展を褒めていただき、これからの本学に対しての期待が述べられました。
本学は、「先端科学技術分野の研究の推進」、「その成果に基づく 高度な教育による人材の育成」によって、「科学技術の進歩と社会への発展に寄与する」ことを目的として大学院大学として設立されました。私達教職員はその 理念や目的の実現のために、この20年努力してきました。そして、その結果が今の本学の状況で、色々な統計データでも、本学の教育研究などに関する活動は 客観的に高く評価されております。皆さんはこうした優れた大学に入学してきたということに、まず、誇りを持ってください。
今回の入学式の 特徴は、最初に申し上げたように、32名のうち22名という半数以上が海外からの学生であるということです。特に本学の博士前期課程にこれほど多くの海外 からの学生が入学してきたことは初めてのことであります。本学は、開学以来、教育と研究に多くの努力をしてきましたが、最近はそれに加えて、大学の国際化 にも努めております。その一つが英語で修了できる課程(コース)の設置であります。今回博士前期課程に多くの海外からの学生諸君が入学してこられたのはこ うしたコースが出来たからであると思います。勿論、博士後期課程は以前から、英語で修了できる体制を作ってあります。
従って、留学生の皆さんは、勉学という意味では、英語で生活が出来るはずです。皆さんが本学に来た大きな目的の一つは、勉学と研究によって、それぞれの専門分野において活躍できる研究者として成長することでありましょう。
しかし、皆さんに本学が期待していることはそれだけではありません。また、皆さんもそうした専門的研究者になるためだけに、日本や本学を選んだのではないのだと思っています。
こ の機会にあらためて日本の大学の国際化とは何かを考えてみたいと思います。それは、日本の大学を世界に開放して、その中で、国際社会で活躍できる人材を育 てることということでありましょう。そして、日本の学生が国際社会の状況を理解すること、さらには、海外からの学生諸君が日本の文化や社会を理解し、日本 人の知りあいを多く作ることでしょう。そのためには、私達は多くの留学生を受け入れたいと思っています。そして、色々な国からの留学生と日本人学生が交わ る中で、お互いの国々の状況を理解し合える国際的感覚を養成し、また、お互いの文化の多様性を知り合うことが、国際化の第一歩であると思っています。
そ のためには、留学生の皆さんには、専門分野の研究者としての勉学だけではなく、日本語も勉強し、また、日本の文化についても、学んでいって欲しいと思うの です。それは、皆さんが本学修了後お国に帰って仕事をされるにしても、日本で仕事に就くにしても、必要なことであります。私達大学も、皆さんの勉学のみな らず、生活についても出来るだけの支援をしたいと思っています。幸い、本学の位置する奈良は、日本の文化を学ぶには最適の土地であり、また、そうした中 で、町の人達とも、交流を持って欲しいと思っています。それは皆さんの日本に対する知識を増やし、皆さんの生活をきっと豊かにするはずです。
日 本の学生諸君には、別の観点で国際化を図って欲しいと思います。現在、日本が貿易などで交流のある国々としては、かつてのアメリカを中心とする欧米から、 アジア地区に移っているという状況を知って欲しいと思います。これからの日本はアジア地区のことを考え、アジア地区の人々と共に、歩んでいかなければなら ないという状況を理解して欲しいと思います。皆さんの活躍の場は、日本だけではなく、世界に開かれているはずです。そのためには、身近にいる留学生と是 非、色々な機会に交流を持って、それぞれの国の状況を知って欲しいと思います。それが日本人学生の国際化の第一歩なのです。そして、皆さん自身も、専門分 野の勉学や研究だけで、本学での生活を終わるのではなく、本学を修了後の人生のための勉強や人生経験も積んで欲しいと思います。それには、まず色々なこと に興味を持ち、好奇心を高めて欲しいのです。奈良という土地は、皆さんにとっても、日本の自然や文化という点で多くの好奇心をもたらす場であります。こう した自国の文化についての知識を持った上で、海外に出れば、皆さんの海外体験はより意味のあるものになるはずです。
さて、日本では、本年 3月11日、東日本大震災が発生し、巨大な津波が日本を襲い、又これらの結果として、福島の原子力発電所で、炉心溶融という大事故が起きました。多くの方 が亡くなり、また、今なお、元の生活に戻れず避難生活を続けられている人が多くおられます。今、東北地方を中心に、震災からの復興のための努力が続けられ ておりますが、その道は容易ではありません。また原子力発電所の事故の処理は、これから相当の期間が必要になる、日本にとって、かつて無い困難を伴う事業 になるでしょう。
今回の大震災と原発事故は、社会の人々の科学に対する信頼を大きく失わせることになりました。科学の進歩は、単に生活の 便利さの向上に貢献するだけではなく、安全であり、安心できるものである必要があります。私は、科学者、科学技術者は自然に対する畏敬の念をもっと持つべ きであろうと思います。同時に、自らと社会や社会の人々との関係についても、深い思いを持ち、科学力ばかりではなく、倫理観、人間力も磨いていかなければ ならないと思います。
これからの地球の環境は、自然環境や社会環境を含めて、色々な問題を抱えることになります。特に、食糧、エネル ギー、水の問題は、相互に絡み合って、皆さんが社会の中心で活躍する頃にはとても大きな問題になるはずです。さらに、原子力発電所問題は、これからのエネ ルギー問題をどうしていくかという大きな問題を私達に突きつけています。皆さんは将来こうした多くの地球規模の課題の解決のために貢献できる人になって欲 しいと思います。そのために、本学で何を学べば良いか、私達は皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
教育という事業は、まず、皆さん 自身が学ぶという姿勢と意欲があって初めて成り立つものです。私は、入学式では必ず、科学の作法を学んで欲しいと言ってきました。科学の作法とは、科学す るものとしての心得で、知識体系や技術体系だけでなく、その元になる、考え方、発想、あるいは、科学者としての倫理、また、言葉では伝えられないものなど であり、それらを自らの学修や研究生活の中で学んで欲しいと思います。
最初に話をしましたように、この10月1日、本学は創立20周年を 迎え記念式典を行いましたが、創立20周年記念事業の一環として、この入学式終了後、事務局棟前に、中国や日本で「学問の木」と呼ばれる「楷の木」 (Chinese pistachio)を植樹します。この木は、まさに、皆さんと一緒に本学に入学したようなものです。
皆さんが、本学での生活を心身とも健康で過ごされ、その勉学の中で、優れた科学者、科学技術者として、この記念樹と共に大きく成長されることを期待して、式辞と致します。
平成23年 10月 3日
奈良先端科学技術大学院大学長 磯貝 彰