イベント報告 2012/04/02
3月23日(金)、ミレニアムホールにおいて学位記授与式を行い、先端科学技術の将来を担う362名の修了者を送り出しました。
授与式では、磯貝学長より学位記が手渡され、式辞が述べられた後、小山博之 本学支援財団専務理事より祝辞が述べられました。
また、本学支援財団が優秀な学生を表彰するNAIST最優秀学生賞の表彰を行い、13名の受賞者に同支援財団から賞状及び賞金が贈られました。
【修了者数】( )内は短期修了者数。
○博士前期課程
・情報科学研究科 135名(2名)
・バイオサイエンス研究科 93名
・物質創成科学研究科 93名
計 321名(2名)
○博士後期課程
・情報科学研究科 17名(2名)
・バイオサイエンス研究科 9名
・物質創成科学研究科 15名(2名)
計 41名(4名)
総計 362名(6名)
【磯貝学長式辞】
本日の学位記授与式にあたり、修士の学位及び博士の学位を得られた修了生の皆さんに、本学教職員はじめ、全ての構成員を代表してお祝いを申し上げます。
皆さんにお渡しした学位記は、それぞれの学位に相応しい知識と能力を持っているという認定の証しです。これまでの皆さんの努力に学長として敬意を表したいと思います。
また本日は、修了生のご家族の方々も大勢見えられておりますが、ご家族の皆様にもお祝い申し上げますとともに、長い間、あたたかいご支援をいただいたことに、学長として感謝申し上げたいと思います。
本 学は昨年10月1日に創立20周年を迎えました。本学は今、高い研究力を背景とした組織的な大学院教育を行っている大学として、社会的に高い評価を受け、 地元の誇りとなる大学となってきております。皆さんはこうした優れた大学を修了したのだということに、誇りを持っていただきたいと思います。「数は力な り」と言いますが、皆さんを含めて本学が開学以来これまでに与えてきた学位の数は、修士5,554名、課程博士1,042名、論文博士39名であり、改め て本学の歴史を感じております。
修士課程修了者の皆さん。
皆さんは、これから社会に出て働くにしても、博士後期 課程で勉学を続けるにしても、皆さんのこの2年間は、科学者あるいは科学技術者になるための基礎を築くためのものとして、重要な時期であったはずです。そ こで学んだこと、またそこで得たものを活かして、自分で選んだ道を堂々と進んで欲しいと思います。
博士課程修了者の皆さん。
皆 さんが博士論文研究という形で、既に優れた研究をしてきていることは承知していますが、それは、その道のプロになる第一歩であり、職業人としての研究者に なるには、まだまだいろいろな経験を積んでいかなければならないでしょう。その際に重要なことは、自己を確立し世界を広く見ることです。決して単なる専門 バカにはならないでください。そのためには、多くの人たちと交わり、多くのものを見て、研究者としての自分の幅を広げていくことが必要です。
留学生の皆さん。
皆さんには、お国に帰られるにしても、日本で勉学あるいは研究を続けられるにしても、これから日本とそれぞれの国との架け橋になっていただきたいと思っています。
そ して全ての皆さんにお願いしたいことは、皆さんは国立大学という日本の、社会の負託を担った大学の修了生として、社会の期待に応えてほしいということで す。期待にリスポンドする、それが責任(リスポンシビリティー)の本来の意味であろうと思います。それは科学者あるいは科学技術者として、人類の智恵や思 想を豊かにする科学の発展に貢献するような研究を行っていくことであり、また、これからの日本やアジア、世界のなかで問題になりつつある、食糧、環境、エ ネルギー、健康など、人の生活や環境問題などの多くの事々を解決するために努力することであります。私たちは本学で、そうした人材を育ててきたと思ってい ます。
皆さんが在学した2011年という年は、本学の20周年にあたる時機であるということと、もうひとつ、3月11日の東日本大震災の年、また、9月の台風12号による南近畿の大災害の年として、皆さんの記憶に残るべき年になりました。
東 日本大震災から1年が経ちましたが、津波からの復興はまだまだで、地域の産業や生活は元に戻ってはいません。また、広範な地域に大きな放射能災害をもたら した福島原発は、ようやく低温冷却状態にはなったと言われているものの、まだまだ、完全な制御下にあるとは言えないようです。また、放射能汚染された地域 の回復にはどのくらいの時間が必要なのかもまだよくわかっていない状況です。
物理学者の寺田寅彦は1934年、「天災と国防」と いう文章の中で「いつも忘れられがちな重要な要項がある。それは、文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその激烈の度を増すという事実である」と、 また「災害の運動エネルギーとなるべき位置エネルギーを蓄積させ、いやが上にも災害を大きくするように努力しているものはたれあろう文明人そのものなので ある」と言っております。人間は科学技術によって文明を発展させてきました。しかし、今なお人間が制御できない自然が存在する事については、謙虚である必 要があるのでしょう。しかし、そうした事に対しても、科学技術によってそれへの十分な備えを用意しておく必要があることを、今回の原発事故は教えてくれた のだと思います。今、日本の各地で大震災からの復興・再生に向けて、いろいろな努力が続けられております。皆さんにも是非、力を貸して欲しいと思います。
さ て、皆さんを取り巻く状況としてもうひとつのことを挙げておきます。世界人口は2011年10月31日に70億人に達し、そして、2050年には93 億人になり、21世紀末には100億人を超えると見込まれると報告されています。また、人口分布ではアジアが世界の60%を占め、今後はアフリカの人口が 急増すると胃言われています。一方、日本では2010年の1億2806万人という総人口は、2048年には1億人を割り込むと予想されています。
皆 さんは、こうした状況にある日本や世界の社会を支えていく立場になるわけです。そうした世界では今以上に科学技術の必要性が高まるでしょう。しかし今、原 発事故をきっかけに、世の中の人々の科学や科学技術に対する不信感が増しているとも言われています。科学が先端化して複雑化している状況の中で、科学者自 身も全貌が見えないことがある以上に、社会の人たちから見れば、科学技術はブラックボックスに包まれ、中身は見えないのでしょう。こうした状況を作り出し てきたことについては、私たち科学者や科学技術を担う人たちにも責任があることは言うまでもありません。改めて科学と社会との関係をどう考えるのかを、日 本の中だけの問題としてではなく、世界や地球の問題として考え,その中で科学技術を発展させていく必要があるのでしょう。
こうし たときに重要なのは、皆さん自身が身につけた考える力や、それによって得た知識であります。また、それを活用するためのネットワークであります。本学が皆 さんに教えてきたこと、あるいは、皆さんが本学で学んできたことは、その基礎の部分であって、それでこれからの人生を送ることが出来るのに十分なわけでは ありません。まさにこれからが皆さんの本格的な学びの季節になるのでしょう。それが生涯学習という概念です。そして、機会あるごとに科学的な観点に立って 自分で何かを考える。そうした人が増えていくことが社会の科学リテラシーを高める事に繋がるはずです。正しく科学技術によって立つ社会は、科学力の高い国 民の間にしか生まれないのです。皆さんはその先頭を切るべき人たちなのです。
大学の二つの大きな任務は、教育と研究であると言わ れます。その中でいつも問題になるのは、教育の成果をどう評価するのかということであります。それは単に、学生の皆さんが在学中や卒業時に達成された数値 だけではないはずです。本学で得たものを基盤に、皆さんが10年後、20年後、どういう活躍をするのかということも、教育という活動の成果を評価する大き な指標になるはずなのです。その意味で、本日修了式を迎え本学の籍を離れる皆さんは、これからも本学の一員であり、本学のたいへん大事な財産の一部である と、私たちは思っています。皆さん自身のこれからの活躍が本学の歴史を作っていくのだということを、忘れないで欲しいと思っています。皆さんのこれからの 活躍を期待して、また、祈って、式辞といたします。
修了おめでとう。