研究成果 2012/11/06
生物は環境に適応するため、外部の光に反応し構造を変化することで情報を伝える重要なタンパク質(光センサータンパク質)を持っているが、その動きを世界最高の分解能で可視化することに、奈良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝彰)物質創成科学研究科 エネルギー変換科学研究室 の上久保裕生准教授と片岡幹雄教授らが成功しました。米国立衛生研究所・国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所のフィリップ・アンフィンラド(Philip A. Anfinrud)教授らとの共同研究。光センサータンパク質が光を吸収した直後の100ピコ(1兆分の1)秒から、構造が大きく変化するミリ(1000分の1)秒に至るまでの間、タンパク質の時々刻々の動きを、空間分解能1.6Å(オングストローム、100億分の1㍍)、時間分解能120ピコ秒という、世界最高の時空間分解能で可視化することができるます。100ピコ秒を1分として考えると、これは分子の20年の長きにわたる活動を観察したことに相当します。反応に伴う原子レベルでの動きを画像化して手に取るように見えるうえ、未知の構造変化も明らかになりました。
上久保准教授と片岡教授は、イェロープロテインといわれる光受容タンパク質について、均質で大きく、壊れにくい良質な結晶の調製に成功しました。アメリカのグループと協力して結晶の構造が詳細にわかる放射光を用い、連続写真のように構造の変化を追跡する「時間分割結晶構造解析」を行いました。その結果、これまでの時間分解能、空間分解能をともに凌駕することができ、タンパク質の原子レベルでの変化の様子を正確に解析しました。原子スケールの変化が物質全体に伝播していく現象は、ピコ秒からミリ秒の領域で起こります。今回、イェロープロテインが光を吸収した後、どのように情報が構造変化として伝わるのかが手に取るように見えるようになりました。また、これまで知られていなかった初期の構造変化も明らかにしました。ピコ秒からミリ秒という広範な時間領域で生じる形の変化を、原子分解能で解析できる本手法は、タンパク質の機能解明のためだけではなく、フォトクロミック分子や有機半導体に代表される光応答性分子の反応過程の可視化など物質科学全般に広く応用されるものと期待されます。
この成果は高く評価され、平成24年11月5日(月)から9日(金)の間にアメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of National Academy of Science, U.S.A.)の電子版に掲載される予定です。