イベント報告 2013/09/27
9月25日(水)、先端科学技術研究推進センター研修ホールにおいて学位記授与式を挙行しました。
小笠原学長から、出席した23名の修了生一人ひとりに学位記を手渡し、門出を祝して、式辞を述べました。
式終了後には記念撮影も行われ、修了生たちは和やかな雰囲気のもと、学長、理事をはじめ指導教員等を交えて歓談し、喜びを分かち合いました。
※ 今回の修了生の内訳は、以下のとおりです。
【博士前期課程修了者】
情報科学研究科 8名
物質創成科学研究科 1名
計 9名
【博士後期課程修了者】
情報科学研究科 8名
バイオサイエンス研究科 7名
計 15名
【論文提出による博士学位取得者】
博士(工学) 1名
総計 25名
【小笠原学長式辞】
修士・博士の学位を授与された、25名の皆さん、おめでとうございます。その中には、世界8カ国から15名の留学生の方がいらっしゃいます。本学修了生の国際的なネットワークが広がってともに、修了生の学生生活をご支援いただいたことを、本学を代表して感謝申し上げます。
さ て、博士前期課程を修了され、後期課程に進学する方、社会に出て行く方、また、博士の学位を授与され、アカデミアあるいは産業界で、自立した科学技術研究 者としての生活が始まる方、色々な新しい生活がこれから始まるわけです。まず皆さんに、今、科学技術は大きく変貌しつつあり、面白い時代を迎えつつあると いうことを言いたいと思います。それを象徴する言葉として、ビッグデータというキーワードがあります。コンピュータ、センサー、ネットワークの性能が高度 化し、全世界がインターネットでリアルタイムに繋がれ、世界の様々なデータを一体的に活用することが可能な時代になりました。また、様々なセンサーからの データも活用して、ICT技術が支える新しい世界を作ることも期待されています。バイオ・物質科学の分野でも、分析・観測技術の革新により、今まではでき なかった大規模データの取得が可能となり、まだまだ我々が知らないダイナミックな新しい生物像、物質像が生まれることが期待されています。一方、今月下旬 に開かれる「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の報告書案では、今世紀末の地球の平均気温は、最近20年間に比べ最大で4.8度上がり、海の水 位は最大81センチ上昇する可能性が高いという、従来よりも厳しい予測が盛り込まれていることが報道されています。こうした気候変動の半分以上は人間活動 によってもたらされた可能性が極めて高いとも指摘されているそうです。地球の資源・エネルギーの制約、また、地球温暖化の問題と人類の活動を両立させ、持 続的な社会を作って行くための科学技術の重要性がますます鮮明になっています。画一的な豊かさ・便利さを追い求める社会から多様な豊かさを深める持続可能 な社会への転換とも言われていますが、世界の、さらには、未来の問題を解決するため、今までの成長モデルとは違うグローバル化した社会を舞台にした新しい 科学技術の展開が必要になっています。これから皆さんは、新しい原理の発見や新しい技術の開拓などの基礎的な分野で活躍される方、社会問題の解決により近 い現場で活躍されようとしている方、今後の舞台は色々と思います。しかし、基礎的な研究の成果とその社会的展開の距離がどんどん近くなっていることも、現 在の科学技術の特徴の一つであり、両者は新しい社会の形成への科学技術の貢献のための両輪です。その意味で、基礎研究を指向する方もその社会展開という視 点もきちんと持ち、また、様々な課題解決のための技術開発、応用的研究を指向する方も基礎科学技術の新たな展開に注目し続けていただきたいと思います。
話 は変わりますが、最近、我が国では研究不正という問題が注目されています。多額の競争的研究資金を獲得し、我が国を代表する研究グループの一つと考えられ てきた研究室からの、この16年間に発表された計165報の論文を調べた結果、画像の合成や使い回しなどの不正があると考えられる論文が43報に上り、そ れらは撤回が妥当と判断されたということが明らかになっています。また、薬の効果の臨床研究の現場において、データに操作が加えられたと考えられ、国際的 な論文取り下げに発展しています。こうした、研究上の不正行為は許されないものであることは明白です。しかし、なぜこうした行為が実際に行われてしまった のかということを考えると、そのスタートは日々の研究活動における甘さであり、その積み重ねの結果、こうした重大な不正行為を行うに至ったのではないかと いう気がします。身近な例で言えば、私たちが実験結果を発表するとき、そのデータの再現性・精度に責任を持つ必要があります。自分にとって都合の良い、 チャンピオンデータで話を組み立てるのは間違いです。また、論文を発表するとき、先行研究をきちんと引用することも研究者倫理の一つです。
皆 さんの学位記の番号を見てもらえば分かるのですが、本日の学位授与の結果、本学から修士の学位を授与された者は5,906名、博士の学位を授与された者は 1,167名となりました。皆さんもこうした奈良先端大修了生のネットワークの一員として、新しい社会を作るという高い志と高い倫理観を持って、科学技術 の新しい展開に頑張っていただきたいと思います。
皆さん、おめでとうございます。
平成25年9月25日 奈良先端科学技術大学院大学 学長 小笠原直毅