研究成果 2014/08/12
バイオサイエンス研究科構造生物学研究室の箱嶋敏雄教授、森智行研究員、平野良憲助教と、東京医科大学ナノ粒子 先端医学応用講座の半田宏特任教授の研究グループ、米国製薬会社Celgene社の研究グループは国際共同研究を行い、X線結晶構造解析法という手法を 使って「サリドマイド」に代表される免疫調整薬(IMiDs、immunomodulatory drugs)が結合した状態のヒト由来「セレブロン-DDB1」タンパク質の複合体について、三次元立体構造を世界で初めて明らかにしました。
IMiDs は血液のガンである多発性骨髄腫、あるいはハンセン病のらい性結節紅斑をはじめ、さまざまな病気の治療薬として使われはじめています。しかし、IMiDs はサリドマイドを基本にして改良された薬剤であるために、妊娠初期の女性が服用した場合には、胎児の死産や奇形を起こしてしまう重篤な副作用ももち合わせ ています。
IMiDsが生体内のどのような分子と結びついて薬理作用や副作用を発揮するのかは、半世紀以上の間、研究され続けてきました が、不明でした。そこで、2010年に半田宏特任教授らによってサリドマイドと結合するタンパク質として「セレブロン」が同定されたことから急速に研究の 進展が見られるようになりました。IMiDsの作用機序は、セレブロンに結合して細胞内の遺伝子の発現を変化させることにあります。その結果、ガン細胞の 増殖を抑制することや奇形を引き起こす性質(催奇性)が発揮されることが明らかになってきていました。それでもなお、IMiDsがセレブロンとにどのよう に結合しているか、という最も基本的な「IMiDsとセレブロンの結合様式の謎」は残されたままでした。
今回の研究成果から、IMiDs とセレブロンの結合様式は、セレブロンの表面にある疎水性(水を嫌う性質)のポケット(穴のような空間)にIMiDsが結合している事が明らかになりまし た。この三次元構造の解析の結果は、医学、薬学の分野では、非常に価値のある成果であるといえます。今後、立体構造の情報を利用することで、IMiDsの 薬理作用の効果をもっと高めたり、さらには、副作用を取り除いたりするためのIMiDsの改良、開発を「三次元構造を眺めながら極めて効率よく」できるよ うになり、新薬の開発が加速することになるでしょう。また、分子生物学、細胞生物学といった基礎研究の分野においても、セレブロンの機能を明らかにしてい く上で、有用な情報も提供できます。
この成果は平成26年8月10日(日)付けのイギリスNature Structural & Molecular Biology誌に掲載される(プレス解禁日時:日本時間 平成26年8月11日(月)午前2時)。