イベント報告 2015/04/08
4月6日(月)、ミレニアムホールにおいて平成27年度入学式を挙行しました。
本学では、国内 外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、高い基礎学力をもった学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、 各々の研究分野に対する強い興味と意欲をもった者の入学を積極的に進めており、このたび、445名の新入生を本学に迎えました。
当日は、 奈良県 奥田喜則副知事、生駒市 小紫雅史副市長、公益財団法人奈良先端科学技術大学院大学支援財団 小山博之専務理事、奈良先端科学技術大学院大学同窓会 駒井章治会長を来賓に迎え、また本学入学式では恒例となった茂山家による狂言演能(大蔵流狂言『附子《ぶす》』)を行い、奈良の伝統芸能で盛大に新入生の 門出を祝いました。
【入学者数】
(博士前期課程)
情報科学研究科 129名(うち留学生11名)
バイオサイエンス研究科 119名(うち留学生 2名)
物質創成科学研究科 104名(うち留学生 1名)
計 352名
(博士後期課程)
情報科学研究科 37名(うち留学生16名)
バイオサイエンス研究科 25名(うち留学生 4名)
物質創成科学研究科 31名(うち留学生 7名)
計 93名
総計 445名(うち留学生41名)
【小笠原学長式辞】
本日、奈良先端科学技術大学院大学の博士前期課程に入学された352名の皆さん、また、博士後期課程に入学・進学された93名の皆さん、本学200名の教員、150名の職員を代表して歓迎致します。また、新入生のご家族の方々にも、お祝いを申し上げます。
今 日の新入生の皆さんの中には、世界8カ国からの15名の学生諸君が含まれています。母国を離れて、本学で学ぶことを決意された皆さんを、心から歓迎したい と思います。2週間ほど前に、27名の留学生の方々に学位を授与しましたが、入れ替わりに皆さんが入学されたことにより、本学に在籍する留学生は、世界 42ヵ国からの188名となり、全学生の17%となりました。私の目標は、本学の約60の研究室の全てに、複数の留学生や海外からの研究者が所属するグ ローバルな教育研究環境を作る事ですが、これが現実に近づいていると感じています。
もう言い尽くされたことですが、今や、情報、人、物が 国境を越えて活発に行き交い、世界の様々な国で経済発展が進んでいます。一方で、その結果、資源の有限性、地球温暖化などの問題と人類の経済的・社会的活 動を両立させ、人類社会の持続的な発展を実現するための取組の重要性がますます鮮明になっています。そのためには、物質的な豊かさを追及してきた今までの 社会発展モデルの変革が必要です。その意味で、踏襲すべきモデルがない時代となっており、新たな解決すべき問題を発見し、それへの創造的な回答を導くこと が求められています。
今まで、わが国の大学はともすれば視野が国内に限られていました。しかし現在、世界の将来を見据えて、世界の方々を 受け入れ、日本の科学技術と社会を知ってもらい、また、日本人学生も世界における科学技術への要請と世界各国の社会を知ることができるよう、大学のグロー バル化を進めることが求められています。そのため、文部科学省では昨年度、わが国の大学の国際化を牽引する大学を積極的に支援するスーパーグローバル大学 創成支援事業を開始しましたが、本学もその支援対象に選ばれています。この経費も活用して、留学生の皆さんが生活しやすい体制を一層強化すると共に、多様 な文化、科学技術への要請を持っている多様な国々からの留学生の方が在籍しているという、本学学生の多様性を活かし、様々なかたちでの交流の機会を積極的 に提供していきたいと考えています。さらに、皆さんが世界の科学技術を直に知る教育プログラムを充実させていくことにしています。こうしたプログラムを積 極的に活用していただきたいと思います。
また、博士前期課程に入学された皆さんには、新しい可能性に挑戦して欲しいと思います。皆さん は、これまでの専門知識を深化させていきたい、あるいは新たな分野に挑戦したい、といった様々な希望のもとで、今までの学修の場を離れて本学に入学されま した。本学では、どの研究室に所属し、どのような専門分野で研究活動を進めるのか、色々な可能性が開かれています。これから、各研究科で各研究室の研究内 容の紹介が始まりますが、どのような可能性が本学にあるのか、今までの知識や卒業研究の経験等にとらわれることなく広く見てください。今まで知らなかっ た、あるいは、気がつかなかった、皆さんにとって興味深い研究分野があるかもしれません。本学は、「無限の可能性、ここが最先端」というキャッチコピーを 掲げていますが、本学では、皆さんの将来への新たな挑戦が可能なのです。
ここで、本学が設立された経緯を話しておきたいと思います。奈良先端大の設立にあたって取りまとめられた構想には、本学の研究の使命について、以下のように書かれています。
「先端科学技術分野は、広範な学際的広がりを持つこと、基礎研究における全く新たな展開が見られること、しかもその展開が極めて急速であること、基礎研究 における新しい知見が、極めて短期間のうちに技術開発につながっており、また技術の進歩が、これらの基礎研究の基盤としてその進展を可能にしているなど、 いわゆる科学と技術との一体化が、他の分野以上に顕著であること、等の共通の特色を持っている。したがって、これらの分野においては、従来の学問分野の枠 を越えて、学際的な基礎研究の推進が極めて重要である。」
教育に関しては、以下のように書かれています。「先端科学技術分野の急速な進展 に伴い、これらの分野の研究開発を担う研究者、技術者の組織的養成が、学術研究面でも産業経済面でも大きな課題となっている。特に、これらの分野において は、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる高度の基礎力を持つ多様な人材を養成することが必要である。」
す なわち、本学は、急速に発展していた情報・バイオ・物質という先端科学技術分野において、工学・理学・農学・医学等の従来の学問分野の枠を越えた学際的 な、そして科学と技術が一体化した研究活動を展開し、それを背景に、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる人材を育成 するために設立されたのです。こうした本学の研究教育のミッションは、「世界を視野に入れる」というキーワードが付け加わっていますが、現在でも、強く社 会から求められているものであり、先駆的なものでした。
そして、活発な研究活動を展開していた多様な背景を持つ気鋭の研究者が結集し、高 度な研究活動とそれを背景にした組織的な大学院教育により、6,573名の修士課程修了者、1,239名の博士課程修了者を送り出してきました。こうした 本学の研究教育活動については、客観的な数値指標でも、また文部科学省による国立大学の教育研究実績の評価においても、極めて高く評価されています。例え ば、文部科学省は、実績のある大学の研究力を一層強化するために、研究大学強化促進事業として全国で22機関を現在支援していますが、奈良先端大はその一 つにも選ばれています。
付け加えれば、この研究大学強化促進事業と最初に触れたスーパーグローバル大学創成事業の両方に選定されている大 学は全国で17大学だけです。皆さんは、研究力と教育力において、我が国トップレベルの大学の一員となったことを誇りにすると共に、そのチャンスを最大限 に活用していただきたいと思います。
さて、本学の教育研究のミッションと密接に関係することですが、現在の科学技術は大きく変貌しつつあ ります。そのため、現在、我々は新たな科学技術革命の最中にいるのではと考えている研究者もいます。そして、その結果、社会が大きく変化しようとしていま す。例えば、米国内で現在、人間が担っている仕事の半分は今後10~20 年間のうちに機械化される可能性が高く、また、今、アメリカの小学校に入学した子供たちの半数以上は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろうと いう、レポートもあります。
わが国でも、「現在の研究の最前線では、測定、分析、計算技術の進展等により自然現象や社会現象に関する認 識の範囲が急速に拡大しており、情報量の増加、計算科学の飛躍的進歩による情報処理速度の加速、交通・通信ネットワークの進展による情報の伝播・共有の 高速化などを背景に、学術研究自体が急速に拡大し、その有り様が変化している。生命科学、材料科学など広範な領域で新たな学際的・分野融合的領 域が展開するなど、知のフロンティアが急速に拡大している」と議論されています。
具体的に考えてみると、情報科学分野の新しいキー ワードは、ビッグデータであり、IoT(Internet of Things)です。コンピューター、センサー、ネットワークの性能が高度化し、全世界がインターネットでリアルタイムに繋がれ、世界の様々なデータを一 体的に活用することが可能な時代になりました。また、車をはじめ、様々なものが、常にインターネットに接続されている時代がやってこようとしています。そ の結果、ICT技術が支える新しい世界が作られることが期待されています。
また、ゲノムDNAの塩基配列解析技術の革新等により、ヒトを 含めた多様な生物の様々な細胞活動、生物活動について、膨大な情報を得ることが可能な時代になりました。その結果、バイオサイエンスは、個々のプロセスを 理解する時代から、それらがどのように統合されて多様な生物が生きているのか、そして、地球環境上で、様々な生物がどのように相互作用しているかを理解す る時代になっています。
ビッグデータバイオロジーという言葉に象徴されるように、膨大なデータの統計学的解析が実験生物学を先導するよう になるパラダイムシフトも起こりつつあります。物質の分野でも、分析・計測技術の高度化により、新しい物質世界の姿が見えるようになり、原子・分子の挙動 の解明に基づき、20年前には考えられなかった新しい物質の創成が目指されています。さらに、ケミカルバイオロジーやマテリアルズインフォマティックなど の新しい融合分野も生まれてきています。
基礎研究とその社会的な展開の間の距離も、ますます近くなっています。そして、「知のフロンティ アの拡大により、研究の最前線では質の高い知が次々に生み出されており、何が新たな社会的な価値に繋がるのかの予測が困難となっている」ことが 指摘されています。皆さんが本学を修了し、研究者、技術者などとして社会を担う10年、20年先には、科学技術がどのように発展し、それが社会にどのよう なインパクトを与えているか、現在の我々の想像を超える物になっていると私は思います。
今、グローバル社会を舞台に、モデルのない世界で 自ら考え、新たな科学技術の創出やその活用を行うことができる人材が求められています。皆さんには将来、社会の第一線で、新しい科学技術の開拓・活用によ り新しい世界を築いていくために、急速な科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる高度の専門性と幅広い視野、さらに、異 分野、異文化の人々とのコミュニケーション力、協同力を本学で養っていただきたいと思います。
そのためには、自分の専門分野に閉じこもる ことなく、常に様々な研究の動向に目を配り、それを創造的に活用する能力を身につけることが重要です。これから皆さんは色々な研究室に所属して、学修と研 究活動を進めていくわけですが、他研究室や他研究科の考え方や手法をとりこむことにより面白い展開が可能になるかもしれません。本学は、研究室・研究科の 壁が低いことが大きな特徴です。皆さんも、様々な人との交流を是非進めてください。
最後に、皆さんには、心身共に健康で楽しい学生生活を 送って欲しいと思っています。本学で新たな生活を始めるにあたって、皆さんは新たに多くの人と知りあいになるはずです。そして、そうした出会いを意味ある ものとして継続し、ネットワークを広げていくことは、皆さんの学修・研究活動の幅を広げるだけでなく、これからの人生を支える一生の財産になるはずです。
皆さんの意義ある学生生活とその未来に期待して、式辞とします。
入学おめでとうございます。我々教職員は皆さんを心から歓迎します。
平成27年4月6日
奈良先端科学技術大学院大学長
小笠原直毅