〔プレスリリース〕細胞膜を越えてタンパク質を輸送するモータータンパク質の詳細な作動原理を解明

研究成果 2017/05/08

 すべての生物は細胞膜によって外界と隔離された細胞システムを持っています。また、細胞膜を通して細胞内で合成されたタンパク質を細胞外に輸送することも、生命の維持にとって不可欠な現象です。バクテリア(細菌)では、細胞膜に存在する分子モータータンパク質「SecDF」という輸送役のタンパク質が、水素イオンの濃度の変化による濃度勾配から得られるエネルギーを利用して、合成したタンパク質を細胞外へと牽引すると考えられています。しかし、膜透過するタンパク質に働きかける部位や水素イオンの通り道など、SecDFの詳細は不明のままでした。

 バイオサイエンス研究科の塚崎智也准教授らの研究グループは、SecDFの立体構造をこれまでにない高い分解能(2.6-2.8Å分解能)で決定することに成功しました。

 この構造情報を基に理研、大阪大学、京都大学の研究者らと協力し、生化学的な実験やコンピュータを用いて分子の挙動を推測する分子動力学計算を進めました。その結果、膜透過するタンパク質とSecDFの結合部位を同定、水素イオンが通過しうる細胞膜内の道を見出しました。

 さらなる解析によって、水素イオンの濃度勾配を利用してSecDFの全ドメイン(領域)がダイナミックな構造変化をおこすことが考えられました。こうしたことから、SecDFが駆動するタンパク質の膜透過の新しい分子メカニズムを提唱しました。

 本研究は、膜を超えたタンパク質の輸送メカニズムという生命に必須の現象を解明し生命科学の発展に寄与するとともに、バクテリアに特有のタンパク質であるSecDFを標的とした新規抗生物質の開発の構造基盤となります。

 この成果は、米国東部時間の平成29年5月2日(火)付のCell Reports誌(Cell Press社)のオンライン版に12 p.m.(日本時間平成29年5月3日(水)午前1時00分)に掲載されました。

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