研究成果 2018/03/02
バイオサイエンス研究科ストレス微生物科学研究室の高木博史教授の研究グループは、哺乳類の必須アミノ酸であり、筋肉強化や肝機能改善などの効果が知られているバリンを酵母の細胞内で高効率に生産させることに成功しました。
酵母は発酵産業において広く利用されている微生物ですが、アミノ酸の生産に活用した例は未だ多くはありません。しかしながら、酵母を用いて製造される発酵食品や飼料等に含まれるアミノ酸の量を直接高めることができれば、製品の高付加価値化や発酵産業上有用な技術の確立に貢献できると考えられます。また、炭素分子が枝分かれした構造のアミノ酸(分岐鎖アミノ酸)の一種であるバリンは、飼料やサプリメント、抗ウィルス薬の原料などに広く用いられ、主に大腸菌やコリネバクテリウム属の細菌を用いた発酵法により生産されていますが、食品として高い安全性が認められている酵母を使えれば、有用性の高い技術になることが期待されます。
本研究では、酵母において未解明だったバリンの合成を制御する機構について調べるため、特に、その機構で重要な役割を担う「アセトヒドロキシ酸合成酵素(AHAS)」という酵素に着目しました。その結果、AHASを構成するタンパク質(サブユニット)のうち、酵素反応の調節を担当するIlv6というタンパク質のアミノ酸の一部を他のアミノ酸に置換すると、その改変酵素を発現する酵母の細胞内ではバリン含量が約4倍に増加することを見出しました。通常、細胞内で合成されたバリンはAHASをフィードバック阻害することで過剰生産を防いでいますが、その仕組みが解除されたのです。
一方で、他の分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン)の含量には影響を及ぼさなかったことから、酵母における分岐鎖アミノ酸の合成経路は共通であるものの、合成制御機構は各アミノ酸で独立している可能性が示されました。
また、大腸菌ではフィードバック阻害を解除したアミノ酸置換が、酵母ではまったくバリン合成に影響を及ぼさなかったことから、原核生物(大腸菌)と真核生物(酵母)における酵素機能の違いも明らかになりました。
本研究で得られた知見は、酵母を用いたバリンの発酵生産や、真核生物におけるバリン合成の制御メカニズムの理解につながる有用なものであると考えられます。また、本研究の成果はバリンから合成され、バイオ燃料として期待されているイソブタノールの生産にも応用できる可能性があります。
この研究成果は、国際代謝工学会の学会誌であるMetabolic Engineering誌オンラインサイトに平成30年2月22日付けで掲載されました。