イベント報告 2018/04/06
4月5日(木)、ミレニアムホールにおいて平成30年度入学式を挙行しました。
本学では、国内外を問わず、また出身大学での専攻にとらわれず、高い基礎学力を持った学生あるいは社会で活躍中の研究者・技術者などで、将来に対する明確な目標と志、先端科学技術分野に対する強い興味と意欲を持った者の入学を積極的に進めており、このたび、397名の新入生を本学に迎えました。
当日は、奈良県 一松旬副知事、生駒市 小紫雅史市長、公益財団法人奈良先端科学技術大学院大学支援財団 中村茂一専務理事、奈良先端科学技術大学院大学同窓会 駒井章治会長を来賓に迎え、また本学入学式では恒例となった茂山家による狂言演能(大蔵流狂言『棒縛(ぼうしばり)』)を行い、奈良の伝統芸能で盛大に新入生の門出を祝いました。
【入学者数】
(博士前期課程)
先端科学技術研究科 336名(うち留学生19名)
(博士後期課程)
先端科学技術研究科 61名(うち留学生15名)
◆総計 397名(うち留学生34名)
【横矢学長式辞】
本日、奈良先端科学技術大学院大学の博士前期課程に入学された336名の皆さん、また、博士後期課程に入学・進学された61名の皆さん、本学の約200名の教員、約150名の職員を代表して歓迎いたします。また、新入生のご家族の方々にも、お祝いを申し上げます。
今日の新入生の皆さんの中には、世界11ヵ国からの34名の留学生諸君が含まれています。母国を離れて、本学で学ぶことを決意された皆さんを、心から歓迎いたします。皆さんが入学されたことにより、本学に在籍する留学生は、世界31ヵ国からの250名となりました。
本学は、近い将来、世界40か国以上から300名以上の留学生を受け入れ、約60の全ての基幹研究室に留学生が在籍するグローバルな教育研究環境を実現することを大学の基本的な目標の一つに掲げていますが、これが現実に近づいていることを実感します。
本学は創立27年目を迎えていますが、4月1日に、従来の情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学の3研究科を統合した先端科学技術研究科からなる1研究科体制への組織改革を行いました。皆さんは先端科学技術研究科の1期生として奈良先端大の新しい歴史を作っていくことになります。
この節目の年の入学式に当たって、改めて、本学が設立された経緯を振り返ってみたいと思います。奈良先端大の創設にあたって、平成3年8月に取りまとめられた構想には、本学の研究に関する使命について、以下のように述べられています。
「先端科学技術分野は、広範な学際的広がりを持つこと、基礎研究における全く新たな展開が見られること、しかもその展開が極めて急速であること、基礎研究における新しい知見が、極めて短期間のうちに技術開発につながっており、また技術の進歩が、これらの基礎研究の基盤としてその進展を可能にしているなど、いわゆる科学と技術との一体化が、他の分野以上に顕著であること、等の共通の特色を持っている。したがって、これらの分野においては、従来の学問分野の枠を越えて、学際的な基礎研究の推進が極めて重要である。」
また、教育に関しては、以下のように述べられています。
「先端科学技術分野の急速な進展に伴い、これらの分野の研究開発を担う研究者、技術者の組織的養成が、学術研究面でも産業経済面でも大きな課題となっている。特に、これらの分野においては、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に新しい分野を開拓し続けることのできる高度な基礎力を持つ多様な人材を養成することが必要である。」
すなわち、本学は、当時、急速に発展し始めた情報・バイオ・物質という先端科学技術分野において、工学・理学・農学・医学等の従来の学問分野の枠を越えた学際的・融合的な、そして科学と技術が一体化した研究活動を展開し、それを背景に、科学技術の進展に柔軟に対応し、常に最先端の新しい分野を開拓し続けることのできる人材を育成するために設立されたのです。
現在の本学のミッションには、「世界を視野に入れる」というキーワードが付け加わっていますが、創設の趣旨は、現在でも、社会から強く求められているものであり、先駆的なものでした。
そして、大学、公的研究機関、民間企業等の多様な場で活発な研究活動を展開していた、気鋭の研究者が結集し、高度な研究活動とそれを背景にした組織的な大学院教育を実施することにより、これまでに、7,601名の博士前期課程修了者、1,505名の博士後期課程修了者を世に送り出してきました。
こうした本学の研究教育活動については、客観的な数値指標でも、また、文部科学省による国立大学の教育研究実績の評価等においても、極めて高く評価されてきました。
例えば、本学は、文部科学省の、実績のある大学の研究力のより一層の強化を目指す「研究大学強化促進事業」や我が国の国際化を牽引する大学の支援を目指す「スーパーグローバル大学創成支援事業」の支援対象に選ばれています。この2つの事業に選定されている大学は全国で17大学だけです。
皆さんは、研究力と教育力において、我が国トップレベルの大学の一員となったことを誇りにするとともに、そのチャンスを最大限に活用して、自身のキャリア形成に活かしていただきたいと思います。
さて、先に述べた本学の教育研究のミッションと密接に関係することですが、現在の科学技術は大きく変貌しつつあり、我々は科学技術の大変革の時代に生きていると言えます。
科学技術の最近のキーワードは、主に情報科学に関連すると思われている人工知能(AI)、ビッグデータ、IoT(Internet of Things)です。コンピュータ、センサ、ネットワークの高度化によって、住宅や車を始め、あらゆるものが、常にインターネットに接続されることによって全世界がリアルタイムに繋がれ、世界の様々なデータを一体的に活用することが可能な時代を迎えています。
その結果、必要なモノ・コトを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供でき、社会の様々なニーズに対し、きめ細かく、かつ、効率良く対応できる「超スマート社会」とでも呼ぶべき社会が展望されています。いわゆるSociety 5.0です。
このような社会基盤の変化は、情報科学の分野にとどまらず、すべての分野において研究の方法論やその適用領域に大きな影響を与えつつあります。
例えば、バイオサイエンスの分野では、ゲノムDNAの塩基配列解析技術や細胞活動のイメージング技術等の革新により、ヒトを含めた多様な生物の様々な細胞活動、生物活動について、膨大な情報を得ることが可能な時代になり、ビッグデータバイオロジーという情報科学と密接な融合領域が生まれています。
また、物質創成科学の分野でも、マテリアルズインフォマティックスという情報科学との新しい融合分野が生まれつつあり、新しい物質の創成を目指して、人工知能を活用した、分子や物質の設計の効率化等への期待が高まっています。
さらに、情報科学における医療データベースの構築とバーチャルリアリティや拡張現実を応用した遠隔操作技術の発展、物質創成科学における素子の微小化による生体埋込型デバイスや柔らかい生体適応材料の開発、バイオサイエンスにおける先端発生生物学や細胞生物学の進展等、3領域を結びつけることで、最先端医用工学の展開も期待されています。
このように、科学技術の大変革の中で、先端科学技術分野は、本学の基盤である情報・バイオ・物質の3領域にまたがる融合領域への展開が顕著になっています。そこでは当然、これらの融合領域の研究者・技術者が求められることになります。
科学技術の大変革は、研究にとどまらず、人間と社会に大きな変化をもたらすと言われています。代表的なものが、レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)によって提唱された、コンピュータの能力が人間の知の総和を超える、いわゆる、「シンギュラリティ(Singularity)」への到達です。
それは、2040年代頃で、現在、存在している職業の多くがなくなり、新しい職業が出現しているだろうと言われています。その頃、社会を牽引する中核的な世代になっているのは、今日入学されたあなた方です。
今回の先端科学技術研究科からなる1研究科体制への組織改革は、このような、先端科学技術分野の急激な変化と社会の変革を見据えて、自らの現在の分野に固執するのではなく、新しい分野に挑戦できるよう、融合領域の教育プログラムを抜本的に強化するものです。
皆さんは、これまでの学修の場を離れて、希望を持って本学に入学されたと思います。これから、先端科学技術研究科の各研究室の紹介、研究室配属、教育プログラム選択の過程を経て、皆さんは、本格的に学修と研究に取り組む、本学での活動がスタートすることになります。
今までの知識や経験にとらわれることなく、『足を大きく前に一歩踏み出す』つもりで、新しい可能性に挑戦して下さい。本学のキャッチコピーは、『無限の可能性、ここが最先端』です。本学の教職員は挑戦心を持ったあなた方を支援します。
将来、1つの専門分野の知識やスキルに固執するのではなく、その分野で修得した方法論を他の分野に適用することによって、新しい分野の開拓に挑戦し続け、シンギュラリティを力強く突破するために、本学で、その基礎を養ってもらいたいと思っています。
最後に、皆さんには、健康で楽しい学生生活を送って欲しいと思います。皆さんは本学で新たに多くの人に出会うはずです。そうした出会いを大切にし、ネットワークを広げていくことは、皆さんの学修・研究活動の幅を広げるだけでなく、これからの人生を支える一生の財産になるはずです。
皆さんの有意義な学生生活とそれを通した大いなる飛躍を期待して、式辞とします。
入学おめでとうございます。
平成30年4月5日
奈良先端科学技術大学院大学長
横矢直和