研究成果 2019/09/17
【成果の要点】
- 細胞の運動を駆動する繊毛の微小管の立体構造を、クライオ電子顕微鏡を用いて高分解能で決定
- 微小管内のタンパク質が微小管を安定化する機構を初めて解明
- 繊毛の安定化機構の解明は、繊毛病などの遺伝病の病態の理解にも有用
【概要】
ヒトの精子が鞭毛を波打たせて移動するように、真核生物は細胞表面の駆動装置である繊毛・鞭毛により運動しています。ヒトの場合、繊毛・鞭毛の異常は、不妊など繊毛病を引き起こすことも知られています。このように重要な駆動装置である繊毛・鞭毛は一秒間に数十回にも及ぶ波打ち運動をしており、その負荷に耐えるため、繊毛・鞭毛内の軸となる微小管は非常に安定で丈夫な構造をしていますが、その安定化の機構の詳細は分かっていませんでした。
奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の市川宗厳助教らの研究グループは、カナダのマギル大学のメンバーらと協力し、超微小な物質の立体構造を得ることができるクライオ電子顕微鏡法を用いて、繊毛の微小管の立体構造をこれまでにない高い分解能(4.3 Å)で得ることに世界で初めて成功しました。これによって、繊毛の微小管内には多数のタンパク質構造が網目状に結合していて、内部から微小管構造を裏打ちすることで補強していることが見出されました。また、微小管の構成要素であるチューブリン(タンパク質)による格子構造は、微小管内タンパク質によって、安定な伸長型の構造に固定されることも明らかとなりました。さらに、京都大学のメンバーと協力することで、微小管内部へのタンパク質の結合がその微小管構造を安定化することを、分子の動きをコンピューター上で再現する「分子動力学シミュレーション」という手法でも示すことが出来ました。
本研究は、細胞の運動駆動を担う繊毛・鞭毛の微小管の安定化機構という生命に根源的な機構を解明し生命科学の発展に寄与するものであるとともに、繊毛病の病態がどのように引き起こされるかを理解する上でも重要な基盤となることが期待されます。
この成果は、米国東部時間の令和元年 9 月 16 日(月)付で Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌(National Academy of Sciences)のオンライン版に掲載されました。