研究成果 2019/12/02
奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科 情報科学領域 モバイルコンピューティング研究室の柴田直樹准教授は、ビットコインなど仮想通貨の仕組みであるブロックチェーンという分散管理、相互監視のシステムを維持する際に浪費されている電力や計算資源を利用して計算することにより、最適な解(近似解)を低コストに探索する仕組みを開発しました。工学、生物学の解析研究や資産運用、ニューラルネットワークの構築などの際に、一般ユーザが登録して使えます。
工学研究や、その成果を社会での応用に結びつける際に、与えられた制約のもとで最も良い選択を行うことが必要になる場面があります。例えば、タンパク質の構造解析、投資ポートフォリオの最適化、神経網を模した「ニューラルネットワーク」の数理モデルの構築などです。このような選択の場合、様々な要因の組合せに対して、それがどの程度良いか評価を行い、最も良いものを探索する必要があります。このような課題は、最適化問題と呼ばれ、取り入れる要因の数が増えるに伴い、組合せの数が爆発的に増加するため、解くテーマによっては、極めて大きな計算量が必要となります。 一方、ビットコインなどの暗号通貨に利用されているブロックチェーンでは、取引の正しさを保証するために極めて大きな計算量が必要になり、計算機を動かすために膨大な電力が必要となっている現状があります。
今回開発した手法により、この浪費されている電力と計算資源(CPUやメモリの稼働時間など)が最適化問題の解探索のために併用できるようになります。解探索を行うためには、ブロックチェーンを構成している多数の計算機からなるネットワークに対し、一般ユーザが任意の最適化問題の解探索ジョブを登録します。ブロックチェーンを構成する計算機群は、登録されたジョブの解探索を行う一方で暗号通貨の取引の正しさを保証します。従来手法では、取引の正しさを保証するためだけに計算を行っていたところを、開発した手法では同時に一般ユーザが求める解探索を行うことで正しさを保証できるようにして余剰の電力を活用したことが、新しい点です。また、提案手法は、一般ユーザが任意の解探索ジョブを登録したり、探索の結果得られた解を受け取ったりすることのできる仕組みを提供し、利便性を確保します。
最適化問題の種類は非常に多く、実社会のあらゆる分野において存在します。本手法の特徴として、任意の最適化問題の解探索が安価に行える利点があります。タンパク質の構造解析、投資ポートフォリオの最適化、ニューラルネットワークの最適化に加え、LSI(大規模集積回路)の設計、生産計画や輸送計画の策定、自動車や建築物の構造最適化など、計算量の多い組合せ最適化問題が安価に解けるようになると期待されます。
この成果は、2019年11月28日付けで IEEE Access にオンライン公開されました。
【URL】https://ieeexplore.ieee.org/document/8917609