研究成果 2020/10/15
奈良先端科学技術大学院大学 (学長: 横矢直和) 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 花発生分子遺伝学研究室の山口暢俊助教と米国ペンシルバニア大学Doris Wagner(ドリス・ワグナー)教授らの国際共同研究グループは、植物が葉をつくる成長をしているときに、花をつくる遺伝子の働きをOFFにしておく詳細な仕組みを世界に先駆けて明らかにしました。この成果により、開花の時期を人為的に調節できるようになれば、食糧の増産や安定供給などが期待できます。
花を咲かせるためには、花芽の形成を開始する小さなタンパク質「フロリゲン」が葉で作られた後、茎の先端(茎頂)へと運ばれて働くことがわかっていました。このフロリゲンは茎頂に移動後、遺伝子発現のスイッチをONにする特定のパートナーの因子(転写因子)と結合することにより、花をつくる遺伝子に働きかけます。しかし、日の長さや気温など花を咲かせるために適した環境条件でない場合には、まだ花を咲かせずに待ったほうが生存や適応にとって有利になります。そのためには、フロリゲンが働かないようにブロックする必要があります。これまでに、フロリゲンの働きを抑制するタンパク質が見つかっていましたが、「その抑制因子がどのようにフロリゲンの作用をブロックするのか?」という詳しい仕組みについては謎でした。
山口助教らの国際共同研究グループは、モデル植物のシロイヌナズナを使って実験を重ねた結果、フロリゲンは、その抑制因子と対抗し、パートナーの転写因子を奪い合うことを突き止めました。このことから、フロリゲンがパートナーの因子を奪われてしまうと花をつくる遺伝子に働きかけることができなくなることを明らかにしました。花の形づくりを進めるかどうかを決める仕組みを解明することは、植物の進化や生き残り戦略を知るうえでも非常に重要です。
本研究の成果は2020年10月12日付けでNature Communications(オンラインジャーナル)に掲載されました。