〔プレスリリース〕寄生植物の宿主植物への侵入に必要な遺伝子を同定 ~深刻な病害寄生植物の防除法開発に期待〜

研究成果 2020/10/29

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:横矢直和)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域のツイ・スンクイ特任助教、吉田聡子教授らは、理化学研究所環境資源科学研究センターの白須賢グループディレクター、基礎生物学研究所の長谷部光泰教授らとの共同研究により、寄生植物が、宿主になる他の植物を認識し、植物体内への侵入を果たす仕組みを明らかにしました。宿主がつくるエチレンという生理作用を調節する植物ホルモン(シグナル伝達物質)を感知することにより、侵入を開始するもので、その機構に関わる主要な遺伝子を初めて突き止めました。この成果は、大きな被害をもたらしている作物の病害を起こす寄生雑草の防除につながる応用が期待されます。

 寄生植物は、他の植物(宿主植物)に寄生して栄養を奪って生育します。寄生植物に寄生された宿主はダメージを受けてしまい、なかでもストライガやオロバンキなどハマウツボ科の一部の寄生植物は農業病害雑草として、世界的に大きな農業被害をもたらしています。この科の寄生植物は、「吸器」と呼ばれる寄生器官を自身の根に作り、吸器を宿主の根に付着させ、その組織の中に侵入したうえ、維管束をつなげて栄養を吸収します。しかし、吸器がどうやって宿主の根の位置を認識し、組織内に侵入するのかは全くわかっていませんでした。

 今回研究チームは、日本に自生するコシオガマという寄生植物を使って、吸器の伸長が止まらず、宿主に侵入できない変異体を単離しました。また、ゲノム(遺伝情報)解析により、この現象(表現型)がエチレンのシグナル伝達に関わる遺伝子の異常に基づいて生じていることを突き止めました。つまり、寄生植物のエチレンのシグナル伝達に異常が生じると宿主の存在を認識できず、侵入することができないことが分かりました。さらに、エチレンを作れない宿主植物に寄生植物を感染させると、寄生率が低下したことから、寄生植物は、宿主植物が生産するエチレンを認識して侵入していることが明らかとなりました。これは、宿主の侵入に必要な遺伝子を初めて明らかにしたものであり、病害寄生雑草の防除法の開発への応用が期待されます。

 この研究成果は、2020年10月28日(水) 午後2時(日本時間2020年10月29日(木)午前3時)付でScience Advances(サイエンス・アドバンシス)に掲載されました。 

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