研究成果 2020/12/16
TGF-βシグナル依存的な遺伝子発現の活性化機構の一端を解明
~がん治療に応用可能な新規TGF-βシグナル制御法開発への期待~
【発表者】
宮園 健一 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 養生訓を科学する医食農連携寄付講座 特任准教授)
伊藤 友子 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任研究員)
深津 由衣 (奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域)
和田 ひかる (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 修士課程2年:当時)
栗崎 晃 (奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 教授)
田之倉 優 (東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 養生訓を科学する医食農連携寄付講座 特任教授)
【発表のポイント】
◆サイトカインの一種であるTGF-βは、がんの悪性化(浸潤や転移)を促進します。
◆TGF-βシグナル依存的な遺伝子発現の活性化に重要なタンパク質分子間相互作用の構造基盤を明らかにしました。
◆得られたタンパク質複合体構造を基とした、あらたな創薬研究の展開が期待されます。
【発表概要】
TGF-βは、細胞の増殖や分化を制御する多機能性のサイトカイン(注1)です。TGF-βシグナルの異常な活性化は、がんの悪性化(浸潤や転移)を誘導することが知られており、そのシグナルの阻害は、がんの治療に有効であると考えられています。SMAD2/3はTGF-βシグナル伝達系において中心的な役割を果たす転写因子であり、転写活性化因子CBPと結合することによって、シグナル依存的に多様な遺伝子の発現を誘導します。
今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の田之倉優特任教授を中心とする研究グループは、X線結晶構造解析法(注2)により、SMAD2によるCBPの認識機構を明らかにしました。また、SMAD2に対する結合力を強化した改変型のCBPペプチド断片は、TGF-βシグナル依存的な遺伝子発現の活性化を抑制できることが明らかになりました。
SMAD2/3によるCBP認識機構の構造基盤が明らかになったことにより、構造に基づいた新規TGF-βシグナル阻害剤の開発が可能となりました。得られる新規阻害剤は、がんをはじめとするTGF-βシグナル関連疾患の治療への応用が期待されます。