ネットに蓄積された個人の経験を集めて知の宝庫に ~CGM上の経験情報を検索・分析できるデモサービス「みんなの経験」を一般公開~

2008/12/04

【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:安田 國雄)情報科学研究科 自然言語処理学講座の乾健太郎准教授と阿部修也研究員らの研究グループは、ニフティ株式会社(社長:和田 一也、東京都品川区)との産学連携により、ブログなどネットに書かれた個人の経験情報を検索できるシステム「みんなの経験」を開発しました。本日12月4 日(木)から研究目的のサービスとして一般に公開いたします(「みんなの経験」:http://minna.naist.jp/)。

「み んなの経験」では、商品や店舗、観光地、行政サービスなど様々なトピックについて、人々がブログに書き記した膨大な数の経験を自動解析し、データベース化 しています。ユーザは、例えば「アロマオイル」や「インターネットオークション」のようなトピックについて、それを利用した人が「どんなメリットを感じた か」あるいは「どんなトラブルを経験したか」(末尾の図を参照)といった経験情報を簡単に検索することができます。また、「ボルドーワインとブルゴーニュ ワイン」や「黒川温泉と城崎温泉」といったライバル同士の経験や評判を比較することもできます。

このサービスには、乾准教授らのグループ が新たに開発した「経験マイニング」の技術を利用しています。経験マイニングとは、ブログ等のCGM(Consumer Generated Media、消費者生成メディア)に記述された膨大な言語情報の中から、指定したトピックに関連する個人の経験の情報だけを高精度に取り出して、利用経験 や成功経験、トラブル、感想などに分類する言語意味解析技術です。この技術の実用化が進めば、既存のレビューサイトのような一部のユーザの投票や書き込み だけでなく、日本で900万人とも言われるブロガーの幅広い自発的な声をすくい取り、互いが互いの経験から学べる「知の宝庫」を作ることができるでしょ う。

乾准教授らは今後、「みんなの経験」を通して一般ユーザからのフィードバックを集め、経験マイニング技術の実用性向上と「みんなの経 験」のサービス改善を継続的に行っていく予定です。また、その成果はニフティに技術移転され、ニフティが運営するインターネットサービス「@nifty」 上に展開される予定です。

【解説】
経験マイニング技術の特徴
従来の評判検索では、「便利だ」「がっかり」のような主観的 で明示的な評価の記述だけを評判として見せるものがほとんどでした。これに対して経験マイニングでは、「持ち歩ける」や「視力が落ちた」のように、良かっ た経験や困った経験を客観的な記述の中からも集めることができ、「なぜ評判がよいのか」、「どのような問題があるのか」をより具体的に調べることができま す。これを実現するために、乾准教授らは次の2つの問題を解決しました。

① 客観的な経験表現の自動獲得
「視力が落ちる」のよう なトラブルを表す経験表現は、「便利だ」のような主観的な評価表現に比べて、はるかに多様なため、人手で網羅的に集めるのは極めて困難です。乾准教授ら は、膨大なブログ記事の集まりから、良かった経験や困った経験を表す客観的経験表現を自動獲得する技術を開発し、その成果を「みんなの経験」に利用してい ます。

② 文の事実性の自動認識
例えば、「視力が落ちる」という表現は、「視力が落ちました」と書かれていれば実際に起こったト ラブルですが、「視力が落ちるって聞いたけど」は人から聞いた不確かな話、「視力が落ちたら困るので」は仮定の話でしかありません。乾准教授らは、文中の 各述語がそれぞれ「事実を表しているかどうか」を自動認識する事実性解析技術を新たに開発し、「みんなの経験」に組み込んでいます。

経験マイニング技術の効果
経 験マイニングによって得られる経験のデータベースにはさまざまな用途が考えられます。一般ユーザは、第三者の多様な体験談を参考に商品を購入したり、トラ ブル情報を共有したりすることができるでしょう。企業が利用する場合は、自社や競合他社の商品に関する評判や問題、要望を幅広い消費者から集めることがで きます。また、個々のブロガーごとに経験の履歴を集めれば、その人のプロファイル情報として利用することもできます。「みんなの経験」ではまだサポートし ていませんが、「自社商品に関心を持ちながらまだ買っていない人」、「あるサービスの継続的な利用者が最近利用を止めてしまったケース」といった複雑な検 索も技術的には可能です。個人の利用はもとより、企業のマーケティングやリスク管理、行政サービスの評価などの情報源としてWebを有効活用できるように なると期待できます。

PDFファイル(648.39 KB)

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