3Dゲーム機の立体視で新物質開発が促進 ~分かりやすい原子構造表示 理科系離れを食い止め~

2011/07/12

【概要】
物質を構成する原子の並び方は物の性質を決める重要な要素です。たとえば、同じ炭素原子からできていても、ダイヤモンドと炭では色や固さ、電気抵抗までも極端に違います。これまではX線回折で解析されていましたが、直接見ることはできませんでした。

そこで、奈良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝彰)物質創成科学研究科凝縮系物性学研究室の大門寛教授らは、独自開発した「二次元表示型光電子分光装置」という分析器を用いて世界で初めて原子配列の立体写真の撮影に成功しました。しかし、立体写真を立体視するには、高価な3Dテレビなど大型の装置と専用メガネが必要で、見られるのは研究者ら一部の人でした。

こ うしたことから、大門教授らは、多くの人に原子の世界を堪能してもらおうと、発売中の3次元表示できるポータブルゲーム機(ニンテンドー製)のファイルに 変換してホームページに置き、アクセス可能にしました。この結果、世界中の多くの人がどこでも簡単に原子の世界を体験することができるようになりました。

今 回、使用した技術では元素ごとの構造解析が直接できるため、ニーズが高まるレアメタルの代替物質など新物質の原子レベルでの開発が容易になることが期待さ れます。また、小学生でも原子の世界が体験できるようになったので、理科好きな若者の増加に貢献すると思われ、日本の製造業の興隆にも繋がるでしょう。

【解説】
今回、新たに開発されたファイルの具体例として、インジウムリン結晶の中の原子の立体写真を紹介します。

図 1は、インジウム(In)原子とリン(P)原子からなる結晶中のIn原子(図(d)のO)から隣のP原子(A)の方を見た原子配列の立体写真です。 (a)、 (b)をそれぞれ左眼と右眼で見ると、脳内で立体像が浮かび上がります。また(c)は赤青メガネをかけることで、フィルターにより左右の画像を分け、同様 に立体視します。

こうして、自分があたかも一つのIn原子になったかのように、自分の周りのPやIn原子の配列を立体的に直視することが出来ます。

と ころが、 (a)、 (b)をそれぞれ左眼と右眼で見ることのできる人はごくわずかで、このまま見せても体験できる人が少ないという問題がありました。(c)の赤青メガネで見 ても、赤青のフィルターの色と表示された色がきちんと合わないため、やはり良く見えないという問題があり、学会で発表しても全員が納得することができませ んでした。昨年度には3Dテレビが発売され、大学に来た人には簡単に体験していただけるようになりましたが、やはり限られた場所でメガネをかけないと見る ことができませんでした。

今回の開発は、ニンテンドーから安価なポータブルゲーム機3DSが発売され、誰でもどこでも、余り小さくない画面で簡単に立体視できる装置が手に入るようになったため、3DS用のファイルを作成したものです。これらのファイルを大学のホームページ
http://mswebs.naist.jp/LABs/daimon/index-j.html に置きました。これにより、3DSを持っている人なら誰でも、日本だけでなく世界中の人がダウンロードして原子の世界を立体的に体験することが可能になりました。(図2)

こ れは、手法も装置も日本発の新しい技術です。この技術では元素ごとの構造解析が直接できるため、レアメタルの探索や、その代替物質などの新物質の原子レベ ルの開発が容易になることが期待されます。また、小学生でも原子の世界が体験できるようになったため、理科好きな若者が増えると思われ、日本の製造業の興 隆に繋がることでしょう。

※用語解説
「ゲーム機の画像表示の仕組み」
上画面に3.5型の視差バリア方式ワイド3D液晶 ディスプレイを採用しており、裸眼で立体的なゲーム映像を見ることができる。視差バリア層と呼ばれる無数の微細なスリットがバックライトを無数の微細なス リット状の光とし、それらのスリットと左右の眼を結ぶところに左右の画素を交互に配置することで、観覧者の右目と左目では異なる画素を見るようにそれぞれ の位置関係を調整している。

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