2011/08/09
【要旨】
奈良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝 彰) 物質創成科学研究科 情報機能素子科学研究室の浦岡行治 教授と同大学 同研究科 メゾスコピック科学研究室の山下一郎 教授らの研究グループは、タンパク質を使うバイオ技術で作製した超高密度の均一なナノ粒子を含む3次元のフローティングゲート(蓄積電極)メモリを動作させることに世界で初めて成功した。
新 たに開発したナノメートルサイズの微細構造を作製する技術は、遺伝子工学に基づきタンパク質を使うバイオ技術と半導体微細加工技術とを融合させたもので、 ナノ製造技術の新しい潮流と位置づけられる。この技術により高密度化が進む半導体回路の課題である高速・低消費電力をクリアするとともに、温度管理などの 巨大設備がいらないバイオ技術により低コストで高性能、高信頼性のあるフラッシュメモリなどを大量生産する道が開ける。
この研究成果は、応用物理学会論文誌Applied Physics Expressとして近く掲載予定である。
【特徴】
半導体メモリの製造工程にバイオ技術を使用。
生体の細胞に含まれ、金属分子を包み込み貯蔵する球殻状タンパク質分子(フェリチン)を利用し、サイズの均一な電極になるナノ粒子を作製。これによりメモリ素子の動作電圧のばらつきを抑制した。
球殻状タンパク質が持つ自己組織化の能力(整然とした構造を自然に形成する能力)を利用し、シリコン基板上へのナノ粒子を高密度に3次元配置できた。
特定の材料を認識するペプチド(アミノ酸分子)をフェリチンタンパク質のまわりにつけること(進化分子工学)で、決められた位置に次々に三次元的にタンパクを積み重ねることができた。
ナノ粒子改質技術の確立により、メモリ特性を大幅に改善。
巨額の設備投資が不要なナノ製造技術。環境負荷の小さい、低コスト大量生産が可能。
【内容】
インターネットの普及によって、次世代大容量メモリへの要求はますます高まっている。また一方、スマートフォンやIpad(アイパッド)などIT家電の急速な普及によって、ガラスやプラスチック基板などの熱耐性が低い基板の上に素子を形成する要求も高まりつつある。
同 研究グループは、これまでタンパクなどの生体超分子を半導体ナノ加工に応用する新しい研究を展開してきた。すでに、これらの材料が、半導体デバイスの電極 として、応用可能であることを発表してきたが、今回はこれらの材料を半導体基板上に三次元的に積層する技術を開発し、その電気特性の大幅な改善を実証し た。進化分子工学の手法を取り入れることによって、ナノ粒子を一層づつ積みあげることで、超高密度で、高信頼性のメモリの作製に成功した。
【効果】
本 技術は、超高密度なナノ粒子を三次元に積層できるばかりでなく、従来の半導体プロセスが1000度に近い高温であるのに対し、本技術は比較的低温で形成可 能という大きなメリットがある。従って、今後急速に進化するスマートデバイス(ディスプレイとコンピュータが一体化されたデバイス)などのメモリとして、 大きな期待がかかる。
【関連リンク】
・論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1143/APEX.4.085004
・以下は論文の書誌情報です。
Ohara, Kosuke; Zheng, Bin; Uenuma, Mutsunori; Ishikawa, Yasuaki; Shiba, Kiyotaka; Yamashita, Ichiro; Uraoka, Yukiharu. Three-Dimensional Nanodot-Type Floating Gate Memory Fabricated by Bio-Layer-by-Layer Method. APPLIED PHYSICS EXPRESS. August 2011