鍵のかかった遺伝子の活性化に必要な新たな因子を同定  ~遺伝情報書き換えの仕組み解明に期待〜

2011/09/14

【概要】
生物の遺伝情報はDNAの長い鎖状の分子に含まれる4種類の塩基(シトシン、アデニンなど)を文字のように組み合わせて刻まれていて、 個々の遺伝子はそれぞれの塩基の組み合わせにより決められる。ところが、特定の塩基(シトシン)にメチル基が結合(メチル化)して、タグのように目印をつ ける分子(メチルシトシン)ができると遺伝子は使われず、逆にこの分子をはずす(脱メチル化)と活発になる。このことから、メチルシトシンは遺伝情報の 「5番目の文字」として世界的に注目されている。
なかでも、この分子をはずして遺伝子を活性化する遺伝情報書き換えの仕組みについては大きな謎とされていたが、奈良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝彰)バイオサイエンス研究科 植物生殖遺伝学研究グループの池田陽子特任助教、木下哲特任准教授の研究グループは、この反応に関わる酵素を助ける不可欠な因子(タンパク質)の同定に世界で初めて成功した。このタンパク質はヒトをはじめ動植物、菌類まで保有しており、進化の上で共通に存在する因子であることも明らかになった。
今後、この新たな因子が見つかったことで、遺伝情報書き換えの仕組みが急速に明らかになることが期待される。また、本来使われていない遺伝子を活性化させ、有用な作物を作りだすなどの応用が期待される。
この成果は平成23年9月12日(月)付けの米国科学雑誌Developmental Cell(Cell Press社)のオンライン版に掲載される予定である。

【解説】
動 植物の遺伝情報は受精のさいに、それぞれ父親と母親から1組ずつ子に与えられ、成長とともに両方の遺伝子が使われる。ところが、ある特定の遺伝子について は父母どちらの由来かによって、使われるかどうかが決まる。このような現象はゲノムインプリンティング(遺伝子刷り込み)と呼ばれ、ヒトをはじめとする哺 乳動物や植物にも共通して見られ、遺伝子の働きに関わるメチルシトシンの有無が関係しているとされている。
木下准教授らは、メチルシトシンの影響 を受けるFWA遺伝子に着目した。アブラナ科植物のシロイヌナズナで、この遺伝子の働きが異常な個体を選び、詳しく解析したところ、花粉(オス側)によっ て受粉していないのに、「さや」が伸び、種子の一部が形成されるという異常な現象が起こっていた。その理由として、めしべ(メス側)の生殖に関わる細胞の 遺伝情報の書き換えがうまくいかず、必要な遺伝子が働いていない可能性が考えられた。
さらに、この異常な植物では、多くの遺伝子でメチルシトシンが残っていることから、間違って種のさやが伸びたり、種子ができたりすることを回避できなくなっていた。
このような異常の原因はSSRP1と呼ばれるタンパク質で、木下准教授らは、SSRP1がDNA脱メチル化を行う酵素を間接的に助ける働きを持つ物質であることを突き止め、世界に先駆けて同定した。
こ の酵素以外に反応に必要なSSRP1という物質が同定されたことにより、植物の遺伝情報書き換えの仕組みが今後急速に明らかになることが期待される。この SSRP1は植物だけでなく、酵母のような菌類からヒトまで持っていることが明らかになっている。こうしたことから、植物で理解されたDNA脱メチル化に 必要な仕組みが他の生物でも保存されているとみられる。
植物では、種子の大きさや、様々な成長に関わる遺伝子がメチルシトシンにより制御されていることが分かりつつある。今後、遺伝子の働きを決めるメチルシトシンを自在に書き換えることにより有益な作物を作り出すなど、農業分野への貢献が期待される。
なお、本研究は生物系特定産業技術研究支援センターからのイノベーション創出基礎的研究推進事業、文部科学省の科学研究費補助金および本学グローバルCOEプログラムの助成によりなされたものである。

【関連リンク】
・論文は以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1016/j.devcel.2011.08.013
http://library.naist.jp/dspace/handle/10061/6337(NAIST Academic Repository: naistar)
・以下は論文の書誌情報です。
Ikeda, Yoko; Kinoshita, Yuki; Susaki, Daichi; Ikeda, Yuriko; Iwano, Megumi; Takayama, Seiji; Higashiyama, Tetsuya; Kakutani, Tetsuji; Kinoshita, Tetsu. HMG Domain Containing SSRP1 Is Required for DNA Demethylation and Genomic Imprinting in Arabidopsis. DEVELOPMENTAL CELL. 12 September 2011

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