2013/04/17
【概要】
スマートフォンやタブレット端末、さらには大型TVまで、ディスプレイの部分には、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor: TFT)と呼ばれる各画素の光の強さを調整するスイッチが搭載されており、素早い動きの画像にも鮮明に対応することにより、高精細な画面を作っている。次 世代の情報端末には、より高性能な薄膜トランジスタの実現が不可欠となっており、その材料として、高精細なディスプレイである有機ELを駆動するため、あ るいは、消費電力を下げるために、従来のシリコンから、近年、酸化物半導体の一種であるアモルファス(非晶質)InGaZnO(インジウム、ガリウム、亜 鉛の酸化物。通称:IGZO)に注目が集まっている。この材料は透明で、従来の非晶質シリコンの10倍以上の電気性能を持つことがよく知られているが、そ の製造には多大なエネルギーや製造コストがかかることが課題となっている。
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:小笠原直毅) 物質創成科学研究科 情報機能素子科学研究室の 浦岡行治教授、石河泰明准教授らのグループは、この薄膜トランジスタのもととなる酸化物薄膜の実現について、従来の研究ではガスを使ったプロセスで 500℃以上の熱処理が必要だったところ、液体を使ったプロセスによって、世界で初めて300℃の低温熱処理でスイッチング動作を確認するとともに、約2 倍以上(性能を示す電子の移動度が19.5cm2/Vs)の性能を実証した。これによって、真空をつくるなど大がかりな装置が不要になるため、製造にかか るエネルギーや製造コストを大幅に削減することが可能となる。
また、液体プロセスは、インクジェットなど印刷技術で作ることができる手法 であり、プラスチックなどフレキシブルな基板の上にもディスプレイを形成できる可能性が大きくなった。軽くて曲げられるフレキシブルディスプレイの実現 は、現在、多くの研究者の目標となっており、その実現が加速する。
この研究成果は、近く国際学会IEEE/ AMFPDで発表する予定である。
【研究成果の特徴】
酸化物半導体薄膜の形成に液体プロセスを用いる点。従来は、真空装置の中にアルゴンガスを流して、プラズマ状態をつくり、それを原料に衝突させるスパッタ法と呼ばれる物理的な方法によって、形成していた。
液体材料として、熱分解温度の低い材料を用いたことで、低温で形成可能とした。
原料を溶かす溶媒として、水を用いることで、炭素などの不純物を非常に低く抑えたこと。