2015/02/06
奈良先端大は、独立行政法人 情報通信研究機構(以下、「NICT」)、学校法人幾徳学園 神奈川工科大学(以下、「KAIT」)、NTTアイティ株式会社(以下、「NTT−IT」)、株式会社PFU(以下、「PFU」)、日本電信電話株式会社(以下、「NTT」)、アストロデザイン株式会社(以下、「アストロデザイン」)と共同で、超高精細映像素材の非圧縮IP伝送実験に取り組みました。
2015年2月にNICTが主催する「さっぽろ雪まつり」時の実証実験(注1)で提供された100Gbps回線およびStarBED3 (注2)のインターネットサービスを用い、ハイビジョン画素数の16倍という8K (7680×4320画素) 超高精細映像素材(注3)と、4倍の4K (3840×2160画素) 高精細映像素材を圧縮せずに、ストリーム型ビッグデータとしてクラウド上に伝送・蓄積、編集加工し、ネットワーク上で複数の8K超高精細映像素材の選択切替えを行いながら配信する実験を実施します。従来は専用装置でのみ実現できた、8K超高精細映像素材の蓄積・配信や編集加工を、クラウド内のノードを用いて仮想的に実現し、ネットワークを使った遠隔利用ができるようになります。
同時に、複数地点のモーションキャプチャ(注4)のデータを用いて、リアルタイムで4K高精細映像素材を CG(Computer Graphics) 合成し、札幌の雪まつり会場の模様を紹介する北海道テレビ株式会社(HTB)の映像素材として提供する映像制作の実験、及び小型ロボットを動かす実験も行います。
【背景および今回の実験概要】
2020年の東京オリンピックの開催決定を契機に、8Kや4Kの超高精細映像を利用するアプリケーションの研究開発が加速しています。8Kの映像制作においては約24Gbpsの伝送ビットレート(通信速度)が必要になるため、映像編集や映像効果を付加するためのシステムを一カ所にまとめて構築し、システム間の距離を縮める必要がありました。しかし、今後、これらのシステムを地理的に分散させて構築可能にすることや、超高精細映像素材を同時に複数の遠隔地に伝送することが時代の要請として重視されてくるでしょう。
奈良先端大では、KAITや関係各社とともに、4K高精細映像素材を安定的に伝送、蓄積配信するストリーミングクラウドというインターネットを使って行う技術の研究開発をNICTのテストベッド(試験環境)であるJGN-X(注5)を利用して進めてきました。昨年は、使用可能な回線の帯域が100Gbps化されたことにより、4Kよりもさらに高精細な8K超高精細映像でも、既存の4K映像伝送装置(注6)や広帯域 IP 映像サーバ(注7)を複数台用いて圧縮せずに伝送可能であることを、世界で初めて実験により実証し、映像の臨場感を損なうことなく遠隔地へIPネットワークサービスにより中継することが可能になることを証明しました。これにより、8Kカメラ(注8)のような映像機器をネットワークに接続して遠隔地のクラウド装置と接続することで撮影場所と映像処理するクラウド設備をシームレスに連携でき、編集に必要な時だけクラウドの設備を使う映像製作や CG(Computer Graphics)合成を含む映像効果をインターネットのクラウド上で動作させることが可能となりました。
今回の実験では、クラウド内のノードを8台用いて広帯域IP映像サーバの同期処理化(注9)を行うことで、8K超高精細映像素材を同時に2ストリーム分、リアルタイムに蓄積配信が可能な性能(48Gbps) を達成します。同時に、クラウド内のノードで、8K超高精細映像素材からPCで視聴可能なプレビュー映像を作成する映像加工も行います。また、100Gbpsの回線に接続された複数のIPルータによりマルチキャスト(注10)配信機能を構成し、複数の8K超高精細映像素材(24Gbps)の選択的な受信を行うことで、仮想的な映像スイッチング機能を実現します。このマルチキャスト配信機能を使用し、8K超高精細映像素材コンテンツから生成された様々なレートの映像コンテンツをNAISTやKAITに対して配信を行います。
さらに、これらの映像素材のネットワーク上の安定的な配信を実現するため、高精度なネットワーク計測技術(注11)と8K映像トラヒックメータ(注12)を併用して、100Gbps 回線の伝送状況を実時間で観測する実験も行います。
また、新しい試みとして、複数拠点のモーションキャプチャのデータを使用して、リアルタイムで4K高精細映像素材をCG(Computer Graphics) 合成し、さっぽろ雪まつり会場の模様を紹介する北海道テレビ株式会社 (HTB)の映像素材として提供する映像制作の実験、及び小型ロボットを動かす実験も行います。
今回は、8Kカメラ(注6)の映像を用いて4K映像伝送装置(注7)を送信側・受信側共に4台組み合わせ、同期処理化(注8)することで、8K高精細映像素材のリアルタイム伝送を実現させます。また、広帯域IP映像サーバ(注9)を2台組み合わせ、同期処理化することで、8K高精細映像素材の蓄積配信を実現させます。これらの場合、実際には16枚のハイビジョンの映像を完全に同期させる必要が生じ、映像に付加されているフレーム番号と表示タイミングを発振器の信号を用いて同期させる手法を取ることで実現できます。さらにネットワーク上の安定的な配信を実現するため、高精度なネットワーク計測技術(注10)と開発した8K映像トラヒックメータ(注11)を併用して伝送状況を実時間で観測します。
【今後の予定】
今回の実証実験での結果を踏まえ、超高精細映像素材を用いたクラウド映像製作ワークフロー(作業手順)の確立、マルチメディア研究との連携による新たなメディア製作手法の確立の研究開発をより進めてまいります。
【協力会社】
実証実験の実施にあたり、シャープ株式会社様、北海道テレビ放送株式会社様、池上通信機株式会社様、株式会社ナックイメージテクノロジー様、ナパテックジャパン株式会社様、グリーン株式会社様、住友電気工業株式会社様、ピュアロジック株式会社様、株式会社トランス・ニュー・テクノロジー様の御協力をいただきます。
【注釈】
(注1)「さっぽろ雪まつり」時の実証実験
NICTが新世代ネットワーク技術と放送技術の実証実験の場として、テストベッドJGN-Xを用いた実験フィールドを提供して行う。様々なプロジェクトが最新技術を持ち寄り、実験を行う。
(注2)StarBED3 (スターベッド・キュービック)
NICTが世界最大規模のエミュレーション基盤として運用する、1,300台を超える実験用ノードから構成されるクラウド設備。北陸 StarBED技術センターに設置されている。
[参考URL]http://starbed.nict.go.jp/index.html
(注3)8K超高精細映像素材/4K高精細映像素材
8Kは現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる3300万画素 (7680×4320画素) を持つ。様々なフォーマットが提案されているが、今回は8Kデュアルグリーン方式、フレームレート60P、10bit映像を扱い、必要なネットワーク帯域は24Gbpsになる。
4Kは2014年に開始を目指す次世代高品質テレビ規格のこと。様々な規格があるが、今回は映像業界での素材として用いられる4K@60P映像を扱い、必要なネットワーク帯域は12Gbpsになる。
(注4)モーションキャプチャ
人物や動きをデジタル的に記録する技術のこと。記録された情報を使って、スポーツ選手の身体動作の解析に利用したり、アニメーションの人物表現やゲームキャラクタの動作再現に利用される。キャプチャ技術には、光学式、磁気式など様々な方式がある。今回は、複数の赤外線カメラと反射マーカを用いる光学式を用いている。
(注5)JGN-X
NICTが2011年4月から運用している新世代ネットワーク技術の実現とその展開のためのテストベッド環境のこと。JGN-X利用プロジェクトとして、2013年4月にKAITが「リアルタイム指向ネットワークコンピューティング技術を用いたストリーミングクラウド機能の検証」というプロジェクトを立ち上げ、奈良先端大も共同研究・実験を行っている。その他の参加組織は、NTT-IT、PFU、アストロデザインであり、共同で超高精細映像伝送・蓄積配信実験を進めている。2011年以前より、奈良先端大は前身のJGN2plusに10Gbpsで接続を行い、KAITやNTT未来ねっと研究所との間で各種の利用実験を行っている。
(注6)4K映像伝送装置
NTT未来ねっと研究所の技術を基に、PFUからQool Tornado QG70として製品化されている。QG70は1台で非圧縮ハイビジョン素材(以下、「HD」、伝送レート1.5Gbps)を4本同時に送受可能な性能を有し、装置内の同期で4Kの非圧縮素材を送受可能である。今回は、装置間の同期を行う事で、8K超高精細素材の伝送を実施する。
[参考URL]http://www.pfu.fujitsu.com/qooltornado/
(注7)広帯域IP映像サーバ
NTT未来ねっと研究所の技術を基に、NTT-ITから「viaPlatz XMSサーバ」として製品化されている。本サーバ装置では、1台で4K@60P(12Gbps)を蓄積・配信できる性能を有する。本サーバ装置を2台設置し、入出力装置として「viaPlatz 4Kメディアゲートウェイ」を4台使うことで、8K超高精細素材の蓄積・配信を実現している。
[参考URL]http://www.viaplatz.com/
(注8)8Kカメラ
アストロデザインからAH-4800として製品化された単板式の超小型なカメラユニット。本製品に8K CCU(カメラコントロールユニット)のAC-4802を接続する事で、8Kデュアルグリーン方式の映像が出力される。
[参考URL]http://www.astrodesign.co.jp/japanese/product/ah-4800
(注9)同期処理化
今回はHDの1.5Gbpsのレートを単位に、これを複数組み合わせて送受するマルチレーン伝送を行っている。このため、レーン間での映像のずれがないように映像のフレーム番号と周波数同期を行う。
(注10)マルチキャスト
一対多で、一つの送信元から複数の宛先を持つグループに送信する仕組み。送信元から送信したデータを途中のノードで必要な宛先にのみ複製し、要求に応じて必要な伝送経路を選択する機能を持つため、最小限の帯域利用で効率的な伝送が可能となる。今回はマルチキャストルーティングプロトコルに PIM-SM (Protocol-Independent Multicast Sparse Mode) を用い、マルチキャストグループの切り替えによって、受信する内容を選択的に変更する仕組みを利用している。10Gbps を超える規模でのIPマルチキャストを広帯域で検証した初のケースとなる。
(注11)高精度なネットワーク計測技術
JGN-Xでは、高精度ネットワーク測定装置PRESTA 10Gを複数配置し、多面的な計測が可能な環境を用意している。PRESTA 10Gは、10Gbpsのキャプチャ・ジェネレータ機能を有する10ナノ秒粒度で測定可能なネットワーク測定システムであり、NTT未来ねっと研究所の技術を基にNTT−IT社からSHS-NM10Gとして製品化されている。
今回はPRESTA 10Gを複数台同期させて観測するほか、100Gbpsの区間の一部のトラヒックを抜き出して、計測を行う。
(注12)8K映像トラヒックメータ
複数台の4K映像伝送装置のトラヒックを同時に観測し、使用状況の表示が可能なリアルタイムネットワークモニタを開発し、今回は、80Gbpsまでのトラヒック伝送状況の可視化を行う。