研究成果 2021/05/19
神経ネットワークのシナプスを強化する新しい仕組みを解明
~認知症等の神経疾患解明への応用に期待~
【概要】
奈良先端科学技術大学院大学(奈良先端大、学長:塩崎一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域の稲垣直之教授、Ria Kastian(リア・カスティアン)博士研究員、嶺岸卓徳助教、京都大学大学院医学研究科の林康紀教授らのグループは、脳内の情報伝達を担う神経ネットワークのシナプスを強化する新しい仕組みを明らかにしました。
ヒトの脳内では、膨大な数の神経細胞が神経ネットワークを形成し、生きるために必要な知覚、運動、記憶・学習などの脳の高次機能活動を支えています。神経細胞は、情報(神経伝達物質)を出力する軸索とこれを受け取る樹状突起の間に形成されるシナプスを介して神経細胞間の情報伝達を行います。
例えば、脳内で記憶を司る海馬では、樹状突起上に1万個近く存在するスパインと呼ばれる小さなトゲ状構造体が他の神経細胞の軸索とシナプスを形成します。樹状突起スパインは、神経活動により軸索から放出される神経伝達物質に応答して大きさが変化しますが、その大きさの拡大は、シナプスにおける情報伝達を強化すると考えられています。このシナプスの強化は、ヒトの記憶や学習に必要な脳内の神経ネットワークの変化に重要な役割を果たし、神経回路を模したニューラルネットワークに基づく人工知能(AI)の学習でも用いられています。また、神経活動に応答したスパイン調節機構の異常は、認知症や自閉症、知的障害などの神経疾患の発症と関連することが示唆されて来ました。しかし、これまで樹状突起スパインの大きさを調節する仕組みはよくわかっていませんでした。
今回、研究グループは、シューティンという細胞内タンパク質が海馬神経細胞の樹状突起スパインの形成や、神経活動に応答したスパインの拡大を行うことを見出しました。また、その仕組みとして、シューティンが細胞の骨格を形作るアクチン線維と細胞膜上の細胞接着分子を連結することでスパインの拡大に必要な力を生み出すことを解明しました。
本研究の成果により、神経ネットワークの形成や記憶・学習、ヒトの神経疾患についての分子レベルの理解が深まるとともに、医療への応用などが期待できます。この研究成果は令和3年5月18日(火)午前11時(EST)に米国科学雑誌Cell Reportsに掲載されました。