効率的な花づくりのため、幹細胞の増殖を止め、分化させる仕組み発見 ~主役の多機能タンパク質の作用を解明~ 農作物の種子増産に期待

研究成果 2021/08/27

効率的な花づくりのため、幹細胞の増殖を止め、分化させる仕組み発見
~主役の多機能タンパク質の作用を解明~
農作物の種子増産に期待

概要

 奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域の伊藤寿朗教授、中国南京大学のErlei Shang(アーレイ・シャン)大学院生やSun Bo(ソン・ボ)教授らの国際共同研究グループは、植物が花の受粉に備えて、限られた時間内に花びらや雄しべ、雌しべなどを適切に作れるようにするために、特定の小さなタンパク質が花器官の元になる幹細胞(注1)の分裂増殖を止めて分化させるために複数の作用点に対して機能を発揮し、花の成長をコントロールしていることを発見しました。このタンパク質は「KNUCKLES(KNU)」と呼ばれ、遺伝子の抑制に関わる転写因子(注2)の一つです。研究成果は農作物の種子生産の増加などへの応用が期待されます。

 花は、元となる幹細胞を含む花の分裂組織(メリステム)(注3)から発達し、それが分化してがく片、花びら、雄しべ、および心皮(雌しべ)を生成します。これらの花器官が適切に作られるためには、メリステムが特定のタイミングで細胞分裂・増殖による成長をやめ、分化するように仕向ける必要があります。

 花の発達の初期段階では、幹細胞の活動は、花の幹細胞を誘導する遺伝子と幹細胞の遺伝子(マーカー遺伝子)間で増殖の情報をフィードバックして制御する経路を介して維持されていますが、今回のモデル植物シロイヌナズナ(注4)を使った研究により、KNUが複数の機能をもつことで、特定の花発生の段階で花の分裂組織を完全に不活性化できることが明らかになりました。つまり、KNUは、花の幹細胞を誘導する遺伝子を抑制するだけではなく、幹細胞マーカー遺伝子を直接抑制します。さらに、KNUは花の幹細胞を誘導するタンパク質に物理的に接触し、フィードバック系路を阻害することで、花メリステムの維持に必要な相互作用を妨害するという機能も持っていることがわかりました。

 このようにKNUは短期間で花のメリステムの成長を抑制するための多機能タンパク質として、複数の経路に働きかけることで花の生殖器官が適切に形成されることを保証していることを解明しました。 この研究の結果は、イネ、トマト、トウモロコシなどの食用作物種の遺伝子研究に役立ちます。この研究で発見された花のメリステムの終結メカニズムは、種子生産に直接つながるものであり、世界の食糧生産のための穀物の安定的供給に利益をもたらすことが期待できます。

 以上の研究は、2021年8月31日(火)付けで、米国科学アカデミー紀要 (DOI.org/10.1073/pnas.2102826118)に掲載されました。

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問い合わせ先

<研究に関すること> 

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域
花発生分子遺伝学研究室 教授 伊藤 寿朗(イトウ トシロウ)
TEL: 0743-72-5500 FAX: 0743-72-5502 E-mail: itot[at]bs.naist.jp
研究室紹介ホームページ http://bsw3.naist.jp/courses/courses112.html
研究室ホームページ http://bsw3.naist.jp/ito/

<本研究についてコメントできる方>

龍谷大学REC(Ryukoku Extension Center)フェロー
岡田 清孝(オカダ キヨタカ)
住所: 〒520-2194 大津市瀬田大江町横谷1番5
TEL: 077-543-7831、077-543-7743(REC代表) FAX: 077-543-7771 E-mail: kiyo[at]ad.ryukoku.ac.jp

<報道に関すること> 

奈良先端科学技術大学院大学 企画総務課 渉外企画係
TEL:0743-72-5063  FAX:0743-72-5011 E-mail:s-kikaku[at]ad.naist.jp

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