研究成果 2021/11/24
可視化された自身の脳活動を制御する能力の個人差を
安静状態の脳情報から予測する手法を開発
本研究成果のポイント
・うつ病患者さんに対する新しい非侵襲的な介入方法として、自身の脳活動をfMRIで可視化し、良い状態へと導こうと制御するニューロフィードバック訓練が近年注目を集めています。
・一方で、その制御が上手にできない患者さんも一定数いるため、実用化に向けては、事前にその得手不得手(ニューロフィードバック訓練の適合性)を予測する技術が求められていました。
・本研究では、訓練前に計測した安静時脳活動から、AI(機械学習)技術を用いて、ニューロフィードバック訓練の適合性に関連した脳情報を抽出して、その予測モデルを作成しました。
・作成した予測モデルは、ニューロフィードバック訓練の標的脳部位に依らず、また、独立して募集した研究参加者群に対しても十分な予測精度を示し、高い汎用性があることが示されました。
概要
ニューロフィードバックとは、ある人の脳活動を測定しながら当人にその脳活動の状態をリアルタイムで可視化することによって脳活動を特定の状態に導く、つまり「脳活動を制御する」技術です。薬物や刺激を用いず非侵襲的に脳の状態を変える可能性があることから、精神疾患の新しい治療法としても注目されています。たとえば、疾患によってある脳部位の活動が低下している場合、その脳部位の活動を高めるニューロフィードバック訓練を行うことで、症状を改善できると考えられています。われわれの研究グループでも、うつ病で低下した前頭葉の活動を高めるニューロフィードバック訓練がうつ病患者の症状を改善させる効果を報告しています。しかし、ニューロフィードバック訓練は一種の学習訓練であることから、訓練に対する得手・不得手(訓練への適応性)に個人差があることが知られています。このニューロフィードバック訓練への適応性が治療効果を左右してしまう問題は、治療への実用化にむけた課題となっていました。
本研究はこの問題を解決するために、簡便に測定できる安静時の脳fMRIデータから、その人がニューロフィードバック訓練にどの程度適しているかをAI(機械学習)技術を用いて予測する方法を開発しました。その結果、後部帯状回や後部島皮質を中心とした脳の機能的結合(図1)が、ニューロフィードバック訓練にうまく適応できるかどうかを予測することが分かりました。さらにニューロフィードバック訓練の標的脳部位に依らず予測することができました。この成果を応用することで、さまざまな特性をもつ患者群に対して負荷の少ない検査で適切なニューロフィードバック治療を提供する、テーラーメイド治療(図2)の実現につながると考えられます。
本研究は広島大学および量子科学技術研究開発機構で実施したニューロフィードバック研究のデータと奈良先端科学技術大学院大学および藤田医科大学の機械学習技術を組み合わせて実現しました。また本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)」(研究代表者:広島大学 山脇成人)の一環で行われました。
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問い合わせ先
<研究に関すること>
- 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域 数理情報学研究室
准教授 吉本 潤一郎
TEL:0743-72-5981 E-mail:juniti-y[at]is.naist.jp
- 広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター
客員講師 高村 真広
E-mail:takamura-m[at]hiroshima-u.ac.jp
<報道に関すること>
- 奈良先端科学技術大学院大学 企画総務課 渉外企画係
TEL:0743-72-5063 FAX:0743-72-5011
E-mail:s-kikaku[at]ad.naist.jp - 広島大学 広報部広報グループ
TEL:082-424-3701 E-mail:koho[at]office.hiroshima-u.ac.jp
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