様々なバックグラウンドを持ち、奈良先端大を目指すだけの濃い理由をもった研究室のメンバーと過ごす生活が非常に刺激的だった
吉本 暁文Akifumi Yoshimoto
株式会社サイバーエージェント AI Lab リサーチサイエンティスト
2014年度博士前期課程修了、2017年度博士後期課程単位取得退学(情報科学研究科 自然言語処理学研究室)
私は小学生の頃、父の趣味だった初期のパソコン「PC-8001」により、プログラムを入力したカセットテープに囲まれた環境で育ちました。パソコンには小学校に通いだした1994年頃から触れ、人工知能チャットに触れる機会がありました。当時の人工知能チャットは、たまに単語に反応して定型文を返す程度のものでした。一方で、パソコンほど多彩なことができる存在は身の回りに例がなく、当時の自分にとってのパソコンの印象は「何でもできる技術の結晶だが、知的ではない」というものでした。小学生の頃から、もの作りが好きだった私は、いつかは知的なシステムを自分で作りたいと漠然と思うようになりました。
学部生の頃に機械学習や画像・音声・自然言語処理などに触れ、どれも興味をもった中で、昔の人工知能チャットを思い出し、特に自然言語処理に興味を持つようになりました。しかし、文から意味を計算できる形にしたいと思いながらも、当時手に入った構文解析の手法のひとつである「日本語HPSG解析器」は、少し複雑な文になるとすぐに解析に失敗し、それ以上改善する方法がわからず、係り受け木を特徴としてうまく扱う発想もあまり思い至らない。コンピュータの機械学習周辺の知識もまだまだ少なく、どこかで腰を据えてこの壁の一歩先の世界に入りたいと思っていました。当時は人工知能の深層学習は流行っておらず、パターン認識モデルのSVMが便利みたいな時代で、自然言語処理を本気で勉強してみたいと奈良先端大の自然言語処理学研究室(松本裕治研究室)に辿り着くことができました。
そして2012年から2017年の間、奈良先端大で松本裕治研究室にお世話になりました。気になっていた自然言語処理の基礎解析にすぐに触れ始めることができたのはもちろんですが、様々なバックグラウンドを持ち、奈良先端大を目指すだけの濃い理由をもった研究室のメンバーと過ごす生活が非常に刺激的でした。非常に穏やかで知的な雰囲気もありながら、学術的な議論でまるで喧嘩のような白熱ぶりを見ることも多く、理想的で印象的な環境でした。自分のテーマだけでなく周辺知識を勉強する機会も多く、機械学習自体の理解を深めることもでき、色々と自力で作れるようになったことは今の仕事でも非常に役立っています。
今の会社に入社して最初に自然言語処理で広告がより適切な場面で出るようにする製品の開発を担当しました。その後いくつかプロジェクトを移り、現在は社内の研究組織で音声と自動対話に関する研究開発を担当しています。音声でも自然言語処理の周辺知識が役に立つ場面が多くあります。最近ではアクセントを高精度に認識できる音声認識モデルを作り、得られた自動ラベル(音声を識別するデータ)を使って音声合成モデルを作ることで、非常に少ないデータでも制御性能の高いモデルを作ることに成功し、関係する論文を書きました。応用先として、自動電話応対のサービス、細かく訴求表現の変わる広告の音声、ゲーム、小売などがあり、技術が実際に使われて生活が良くなることを目指しています。