伊藤寿朗教授が、文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス領域花発生分子遺伝学研究室の伊藤寿朗教授が、文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞しました。この賞は、科学技術の研究開発で独創的な成果を挙げた研究者らの功績を讃えることで、日本の科学技術研究のレベルアップを目指すものです。伊藤教授の「植物が環境の変動に対応して花づくりを始めるときに、関連する遺伝子が、どのようにネットワークを組んで働くか」をテーマにした一連の研究が高く評価されました。
伊藤教授は、植物が種子を作るため、特定の時期に限って花を形づくることから、植物が花づくりを決定したり、花の形成状況に伴い幹細胞の増殖を調節したりする仕組みに興味を持ちました。そのため、関連する遺伝子が時機を合わせて、段取りよく働き始めるネットワークの機構について、イメージング(画像化)や生化学の定量的な手法、さらに数理モデルによる解析と、さまざまな研究方法から得られた知見を統合して調べてきました。
今回の受賞対象になった大きな成果の一つが、花の形づくりに関わる遺伝子が、植物自体の決めた時間(バイオタイマー)通りに働く機構の成因を世界で初めて突き止めたことです。モデル植物のシロイヌナズナの遺伝子について調べたところ、花の幹細胞の増殖を止めるなどのバイオタイマーに応じた制御は、遺伝子DNAを包み込むヒストンという染色体のタンパク質に化学物質が結合(修飾)した結果、ヒストンの構造が変化することが引き金になっていました。
最近では、このバイオタイマーの研究を発展させ、花の幹細胞が分化して花づくりを始める時機を数理的なシミュレーションで予測することに成功しました。この予測を応用し、種子や果実の増収に役立つことを目指しています。
また、キャベツなど野菜の栽培では一定期間低温の状態にして開花(春化)を遅らせ、栄養価を高めますが、同様の効果がある化合物の同定にも成功しました。プラスチック製の栽培設備の削減やSDGsにも繋がる研究と期待されます。
「これまで、花ができるまでの道筋を明らかにしてきたので、今後は花が散るプロセスをテーマに調べたいと思います。花が咲き、花粉を運ぶ虫が来て種子を作り、植物の多様性を維持したことに対し、花を積極的に壊して、エネルギーを回収するという合目的なプログラムが植物にはあり、そこを調べていきたい」と抱負を語ります。
伊藤教授は、京都大学大学院理学研究科で博士号を取得したあと、アメリカ・カリフォルニア工科大学、シンガポール・テマセック生命科学研究所、そして本学と研究の舞台を移してきました。その研究の信条は「日々うまくいかないことがあっても、最終的にはうまくいく」ということです。