奈良先端科学技術大学院大学の理事・副学長に加藤博一教授が就任
奈良先端科学技術大学院大学の理事・副学長に加藤博一教授が就任しました。AR(拡張現実感)などのソフト開発や、使い易い情報機器の在り方を探る「ヒューマンインタフェース」の研究で知られる情報科学の専門家です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やコロナ禍の影響で変わる教育環境、大学のシーズを活かす地域貢献など当面の課題について、抱負を聞きました。
――理事・副学長に就任されて、今のお気持ちは。
加藤理事 大学の運営に携わる理事・副学長という立場に立って、身の引き締まる思いです。これまで、キャンパスにデジタル技術を導入するDXを担当する学長補佐を務めてきましたが、今回は、新たに教育、情報管理などの幅広い職務分掌があり、地域貢献に努める地域共創推進室長にも就任します。重責に対して一抹の不安がありますが、十分に職務が果たせるように一生懸命頑張って、本学にふさわしい最善の方策を練り、大学の発展に尽くしたいと思います。
ヒューマンインタフェースがキーワード
――情報科学領域のインタラクティブメディア設計学研究室と、デジタルグリーンイノベーションセンター(CDG)の教授も兼務されているのですね。
加藤理事 研究には、引き続き携わっていきます。特に、情報科学領域の研究室で長年行ってきた、人間と情報機器、情報システムとがうまく付き合える方法を考える「ヒューマンインタフェース」がキーワードの研究の成果については、DX、情報管理などの職務に活かしたいと思います。
――キャンパスのDXの推進については、どのように考えていますか。
加藤理事 DXは、キャンパスの事務や教育、研究に情報機器やデジタル機器を導入することによって仕事の効率を上げ、学生らに対するサービスの質の向上など利用者の満足度を高めて活性化するという改善策です。ただ、大事なことは、デジタル技術そのものは手段にすぎないので、導入する機種を選択する前に、まず、事務、教育、研究の分野それぞれの業務について、どのようなデジタル機器の機能が実際に有効なのか、これを十分に検討しておかなければならないと思います。
当面は事務系を対象にしたDX化を始めていますが、「デジタル機器は、とっつき難いと思っていたが、困難な仕事が思いがけず容易にできそう」とワクワク感を持ってもらうような方法を考えるのが、一番の課題です。デジタル技術の進歩の速度が人間の使いこなす能力を超えて進むなかで、好奇心などのモチベーションを高めることが習得の近道です。このような考え方は「ヒューマンインタフェース」の研究がベースにあります。
オンラインか対面かを見極めたい
――コロナ禍の影響で教育環境が変わりましたが、今後、どのように進められますか。
加藤理事 コロナ禍を経験することによって、対面での講義が減り、オンラインでの講義が当たり前のように行われるといった状況になりました。今後、このウイルスの影響が去った時に、講義をオンラインで続けるか、対面に戻すか、その効果を的確に見極めて対応することがポイントになります。
本学は大学院大学なので研究のウェイトが高く、実際に研究活動を行うなかで、教員から直接、個別に指導を受けるという形の対面教育が不可欠という事情があります。また、オンライン講義については、対話のツールとしてSNSなどを活用することも考えられます。今年度からは、新たな「学修支援システム(LMS)」が本格稼働したので、学生らの教育環境が実質的にどこまで改善されているかを見たうえで検討したいと思います。
スタートアップを推進
――本学の地域貢献については。
加藤理事 地域共創推進室のミッションは、大学が生み出した教育や研究の成果を地域社会に還元することです。これまで地域が抱える課題を大学の技術で解決するために、共同研究のプロジェクトを立ち上げて取り組んできました。ただ、大学の研究の多くは学術的な成果を論文として発表することをゴールとしているので、その知識や技術をそのまま地域に移転するのは困難です。そこで大学の知的財産の活用をサポートする体制を拡充していきたいと思います。
そのために考えられることは、新たな価値の創造を目指す大学発スタートアップ企業の設立です。大学の知財を使って、地域の人たちとともにビジネス展開することで、社会還元がスムーズに進みます。地域共創推進室は、自治体や金融機関の協力を求めるなど、共創の輪を広げて支援することになります。
もう一つは、地域の教育貢献で、学校を卒業して社会に出た人のリカレント教育(再教育)と、高校生向けの教育サポートです。社会の中で急進展するデジタル技術の理解を深めることで、不足するデジタル人材の育成に役立てればと思います。
楽しければチャレンジできる
――大学の将来像をどのように描いておられますか。
加藤理事 みんなが楽しく大学生活を送れるようにするのが基本です。楽しければ、さまざまなことにチャレンジできる、望むことを達成すれば楽しくなる。そのような理想的な循環を期待します。大学の構成員それぞれから優れた提案があれば、すぐに取り入れて実行できるような環境づくりを目指して頑張ります。
本学に教授として就任し、16年になりますが、この大学は比較的小規模な組織であるがゆえに、強い志を持ってきちんと説明し主張すれば、何らかの形で大学の運営に反映されるというメリットがあります。そのような良い環境を継続していきたいと思っています。
加藤博一理事・副学長のプロフィール
大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。 工学博士。2007年に奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科教授となり、情報科学研究科副研究科長、総合情報基盤センター長、附属図書館長などを歴任しました。
ARなど拡張現実感、三次元ユーザインタフェース、画像計測技術のヒューマンインタフェース応用に関する研究で知られ、1999年に開発したARシステムを構築するためのソフトウェア「ARツールキット」は、定番ソフトとして世界中で使われています。趣味は、50代から始めた登山で「マイナス思考のときに心の整理ができる」そうです。