大阪出身。2001年京都大学大学院修了。博士(理学)。専門は発生生物学・細胞生物学。臓器が形成されていくメカニズムを、ニワトリやマウスなどのモデル動物、幹細胞を用いて研究している。
世の中には「その人でなければできない」職業や仕事がたくさんありますが、研究者もその1つです。研究を進めるためには、オリジナリティ、アイデア、頭脳、体力、忍耐強さ、敏感さと同時に鈍感さや幸運など、いろんなものが必要で、まあ私にそれらが兼ね備わっているかは別にして、とにかく自分でなければできない方法で社会に貢献したいと思ったのが研究者の道を選んだ理由でした。
私には妻と小学生の子どもが2人いますので、朝は妻と協力して朝ごはんを準備し、洗濯し、子どもを学校に送り出すところから始まります。その後、出張などがなければ1日大学で実験や会議、スタッフや学生とのディスカッションやラボミーティングなどをこなして行きます。ときどき、子どものお稽古ごとの送り迎えだとか小学校の行事があり、そのときは少しスケジュールを変えて対応しています。小学校は意外に行事があって、とくに今年はPTAの広報委員をしているので会合が定期的にあり、時間をやりくりして、できるだけこれらにも出席するようにしています。
夜は、先に帰宅する妻が子どもたちと夕飯を済ませてくれていて、私は子どもたちの勉強を少し見て、子どもたちが寝たあとに仕事を再開しています。日中は大学でしかできないことを優先しているので、家では論文や申請書、メールを書くなどの作業をします。日によっては夜中までかかるときもありますが、だいたい0時くらいには寝るようにしています。
子育てなどのライフイベントと研究や仕事を両立させる上において、「こうすればうまくいく」というような絶対的な解決方法は存在しません。私の場合は、妻と共働きでしたので、特に子どもが小さかったころは保育所のお迎えのほか、急な病気など予期せぬことが起こったときに、仕事のスケジュールとどう折り合いをつけるかという問題はよく起こりました。一方、イギリスで研究生活を送っている間に下の子が生まれたのですが、妻の出産直後の約2ヶ月間、短時間勤務をさせていただいたため、研究の進展に深刻な影響を与えることなく異国で子育てをすることができました。このような不規則な勤務を認めてくださった当時の指導者にとても感謝していると同時に、文化の違いこそあれ、日本でも同じような体制がより一般的になればよいと思ったものでした。
本学着任後も、私の家では子育ては妻と2人でやっていますので、本学のAA制度は研究や業務の遂行に大きな助けになっており、深く感謝しています。一方で、子育て中のスタッフが必要とする支援は、子どもの人数や年齢によっても変化してきます。また、スタッフによっては夫婦の一方が単身赴任されていたり、あるいはシングルで子育てをされている家庭もあると思います。今後、個人の事情に応じた支援がさらに確立されて行くことを望みます。
幸い、本学にはシニアから子育て中の若手研究者までいろいろな世代の研究者に加えて女性研究者も多く、異なるバックグラウンドを持った研究者を受け入れる土壌が整っています。そして、これが本学の研究を推進する原動力になっていることは間違いありません。学生たちには多くのモデルケースを目の当たりにし、自身の将来を考える上で何かのヒントを得てほしいですね。また私自身も、本学のスタッフとなった今、これまでの経験を生かし、研究室のメンバーが自分のキャリア構築とライフスタイルのバランスを保てるよう、環境整備に微力ながら貢献したいと思います。
研究や実験は多くの場合思った通りには進まず、それをなんとかしようとしてオーバーワーク気味になるのは、私も含めて多くの人が経験済みのことだと思います。また最初にも述べたように、研究者は「自分でなければできない」ことをする仕事なので、研究自体に代役を立てることも困難です。したがって、ワークライフバランスの観点からは、研究者という職業に就くことは、あまりよい選択とはいえません。
しかし、周囲の人たちと信頼関係を築き、説明を尽くした上で助けを求めることは可能です。また、研究において困難な状況に陥ったとき、家庭があることが、それに立ち向かったり乗り越えたりする力を与えてくれるのもまた事実です。もちろん家族や子どもがいることだけが幸福というわけではなく、自由に趣味や旅行を楽しんだり、特技を磨いたりすることも生きがいになるものです。このように、研究以外の「なにか」を絶えず意識して作っておくことが、毎日をポジティブに過ごし、研究に対するモチベーションを維持する秘訣だと思います。
(平成29年6月)